パンクロッカーの自分がジョニー・ロットンを経由して「古事記」を描くまで

『口訳 古事記』に寄せて
日本最古の神話「古事記」を、町田康が口語訳したら?「むちゃくちゃ面白い!!」と話題の新刊『口訳 古事記』は、アナーキーな神々と英雄たちが関西弁で繰り広げる〈世界の始まり〉の物語。本書に寄せた町田康さんのエッセイ「本の名刺」を、「群像」2023年6月号から転載してご紹介します。
口訳古事記 町田康

好きな神様は猿田彦

私は歩行をする場合、道を歩行することが多く、ほとんどの場合、道を歩行している。それは歩行に限ったことではなく、車を駆って走行している時もそうだ。というか、その場合は尚更、道しか行けぬ。私の居住する処は昔は陸の交通がなかったような、前は海、後ろは山、みたいなところで、それ故、今でも道路は海に沿って片側一車線の心細い道があるだけで、どんな時もそこを走って行く。という訳で片側は海が広がっている。どういう訳か、どんな時も波もあまりなく、漁船なのかなんなのか得体の知れない帆掛け舟のような小舟が浮かんでいるのをよく見かける。それが運転中の視界に入ると、天然自然に少名毘古那という神さんの名前が頭に浮かんでどういう訳か笑い顔になってしまう。

私は少名毘古那神が子供の頃から好きで、それと古事記のなかに出てくる神様のなかでは猿田彦が好きだった。小学生の時、担任の先生に、「先生の顔は猿田彦に似てますね」と思ったままのことを言い、それ以来、先生に疎んじられるということもあった。どちらかというと称賛した心算であったのだがサルダヒコという語感が嫌だったのかも知れない。

だからといって猿田彦神が嫌いになった訳ではなく事あるごとに猿田彦という言葉を意味なく舌先に転ばせては快味を感じていた。

関連記事