私たちが暮らす地球は、豊かな恵みを与えてくれますが、地震、火山噴火などの大きな災害をもたらすこともあります。こうした大地の性質を「地質」といいます。
毎年、5月10日は「地質の日」とされ、全国の博物館や大学などの研究機関では、地質に関連したイベントが開催され、2023年も大いに賑わいました。
そこで、ブルーバックス・ウェブサイトでもこの日を記念して、地質のもっとも基本となる「石」から、地質学の基本や面白さの一端をご紹介したいと思います。『三つの石で地球がわかる』などの著書がある、藤岡 換太郎さんの解説でお送りします。藤岡さんによれば、なんでもたった三つの石を理解すれば、この地球のあらましが見えてくるとか。
興味深い「石の世界」、さっそくのぞいてみましょう。
*本稿は、ブルーバックス『三つの石で地球がわかる』の内容を再構成してお送りします。
そもそも石ってなんだ?
石井さん、石川さん、石塚さん、石原さん、石渡さん。私が所属する日本地質学会の名簿に見つけた、「石」がつく名前です。「岩」も「石がつく字」に含めれば、岩井さん、岩崎さん、岩橋さん……と、さらに数はふえます。
「山」や「川」、「田」などに負けず劣らず、「石」がつく名前もこのように、たくさんあります。みなさんの周りにも何人もいるでしょうし、あるいはご自身がそうかもしれません。これは石というものが、昔から私たちの生活に密着した、ごく身近なものであったことの証左です。
ありふれたものであるだけに、石は「石ころ」とも呼ばれ、なんでも一緒くたに見なされがちです。しかし、「石がつく名前」がたくさんあるように、実は石そのものにも、ものすごくたくさんの名前があるのです。石にはそれだけたくさんの種類があるということです。
しかし、私のような岩石学者に代表される「石オタク」ではない一般の方々にとっては、石の名前というものはとてもややこしく感じられるのではないかと思います。
最近は、美しい岩石や鉱物のカラー写真をたくさん掲載した写真集や図鑑などがよく売れているようで、石への一般の方々の関心が高まっていることは「石屋」として私もうれしいかぎりです。
ところが、せっかく石に興味をもって、もう少し勉強してみようと思っても、岩石や鉱物の本には難しそうな石の名前がずらずら並んでいて、げんなりしてしまうという話を私自身、よく耳にします。結局、一般向けの石の本は、石の姿や面白いエピソードを楽しむだけで、科学についてはあまり書かれていないものが多くなってしまっているようです。
ここでは、まず「石ってそもそもなんだろう」という疑問に答えるべく、「石」の基本についてご説明したいと思います。
意外と知らない石の不思議1「石と岩は違うの?」
まず、みなさんは「石」と「岩」は違うものだと思っていますか。それとも同じだと思われているでしょうか。ふだん、あまり考えることもないかもしれませんが、言われてみれば気になるのではないかと思います。私もよく、この質問をうけます。
サイズが小さいものが「石」であり、大きければ「岩」であるという人もいます。『広辞苑』にも「石の大きなものが岩」とあります。だとすれば、宝石のことを「宝岩」とは呼ばないのも、サイズが小さいからということで説明がつきます。サイズで区別する考え方には、手で動かせる程度の大きさなら石、手で動かせないほど大きければ岩、という定義もあるそうです。
しかし、石にも「巨石」と呼ばれる巨大なものが、世界にはたくさんあります。たとえばレバノンの都市バールベックには、世界最大級といわれる長さ21.5m、高さ4・2m、幅4.8m、重さはなんと2000トンもある巨石があるのです(写真をご覧ください)。こうなると、サイズによる区別もいささか怪しくなってきます。

ほかには、地盤にくっついていないものが石、くっついているものが岩、という定義のしかたもあるそうです。漢字の「石」に「山」がくっついて「岩」になるところからきているのかもしれませんが、いささかこじつけのような感じもします。
つまるところ、石と岩の区別は明確にはつけられない、と考えてよさそうです。英語では、石は「stone」、岩は「rock」と呼ぶのが一般的ですが、やはりはっきりした区別はないようです。
この記事でも、あるときは石と言ったり、あるときは岩と言ったりと、厳密な区別はせずに話を進めていきますので、みなさんも気にせずに読んでください。
ただし、ひとつだけ確かなのは、「石」にせよ「岩」にせよ、通俗的な名称であり、科学的な用語ではないということです。
地球科学では、石も岩もひっくるめて「岩石」という言葉を使います。そして岩石とは、「鉱物」が集まったものです。つまり岩石と鉱物の間には、岩石のほうが大きいという明確な関係があるのです。
なお、鉱物には金属や水(!)などさまざまなものがありますが、岩石をつくる鉱物をとくに「造岩鉱物(ぞうがんこうぶつ)」といいます。本書では以後は、造岩鉱物と言ったり、単に鉱物と言ったりしますが、断りなく「鉱物」とあれば造岩鉱物のことだと思ってください。