2023.05.16
# 文学

藤原定家の傑作とは? 日本を代表する歌人が選ぶ、これ以上なく上手い歌

平安から鎌倉時代、『新古今和歌集』などを撰進し、『源氏物語』などの書写・校訂をした古典学者、藤原定家。彼自身が詠んだ歌も、優れた歌が多いことで知られる。では、そんな定家の詠んだ和歌の傑作とは何か。日本を代表する歌人・前川佐美雄が紹介する(『秀歌十二月』をもとに紹介する)。

和歌は、古代から現代まで連綿と続く、日本を代表する文学だ。そのため、和歌を詠むときには、それ以前の作品から影響を受けたり、過去作を下敷きにしてつくったりすることも多い。それ以前に日本に伝わった中国の漢詩から着想を得ることもある。

昔から、「春の夜」を読んだ歌は多い。いつの時代も、春になって暖かくなると、草木が生え、花が咲く情景を美しい表現で残したいと思うのかもしれない。まずは、春の夜を扱った歌を紹介して、次に定家の傑作といわれる歌を取り上げよう(以下は『秀歌十二月』より引用する)。

定家が詠んだ「春の夜」1

大空(おほぞら)は梅(うめ)のにほひに霞(かす)みつつくもりもはてぬ春(はる)の夜(よ)の月(つき)

(新古今集)藤原定家(ふじわらのさだいえ)

「くもりもはてぬ」は、くもりきっていない、というほどの意味であるが、これはこの歌の本歌といわれる大江千里(おおえちさと)の

照(て)りもせず曇(くも)りもはてぬ春(はる)の夜(よ)のおぼろ月夜(つきよ)にしくものぞなき

がうまいぐあいに説明してくれる。これは新古今集にでているが、千里は古今集時代の人で、白楽天の嘉陵(かりょう)春夜の詩「明(めい)ならず暗(あん)ならず朧朧(ろうろう)の月」の心を詠んだものだから、定家のこの歌も千里を通じて白楽天へまでたどれるわけだ。

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