「世の中に存在しなかった」道具
有元葉子さんが以前出版された『毎日すること。ときどきすること』(有元葉子著/講談社)にこんな一節がある。
「いつも思っていることですが、ラバーゼの道具作りを通して、あらためて感じました。人は困難を乗り越えなければ、その先へ行けないのだ、と。
『こういうものが欲しい』と私が言うものは、作るのがとても困難だから、世の中に存在しなかったりするわけです。それでも『やってみましょう』と言って、今までなら3回ですませていたところを、50回、100回検討するような努力をした結果、道具を完成する。『やろう』という強い意志さえあれば、困難に思えたことも、たいていは成し遂げることができる」(第3章「『茨の道』も悪くない」より)
ラバーゼ=「la base」は、料理家・有元葉子さんが発案し、プロデュースするキッチン道具のブランドだ。使い手目線、それも料理のみならず、整理術や掃除、暮らし方においても定評のある有元さんが使いやすさ、美しさ、耐久性、手入れのしやすさ、収納性などを追求した台所道具には、それぞれに完成までのストーリーがあった。

だが、お玉、網じゃくし、フライ返し、泡だて器、へら、トング、菜箸、大さじ、小さじといった「キッチン道具」を収納する「ツールスタンド」完成秘話を聞くと、上記の一節は、それについて語ったものなのではないかと思ってしまう。



事実「できない」と職人さんから失敗作を見せられてから、「できた」の声を聞くまでに、優に1年かかったという。
キッチンツールやカトラリーを立てて収納する「ツールスタンド」作りの、何がそれほど困難だったのか。
そもそもそれほどの苦労までして、ツールスタンドは必要なものなのか。
有元さんのインタビューでお伝えしたい。