「孫、ひ孫の代まで使える」道具

料理家・有元葉子さん、道具のよしあしは「使いやすさ」「洗いやすさ」「美しさ」にあると言う。極めてシンプルである。だがシンプルゆえに、本質が問われる。
1日3回拭き掃除をしてもヌルヌルが気になる水切りかご、縁が切りっぱなしで持ちにくいボウル、30年探し続けても見つからなかった「すっきり取り切れる」へら。
“「こういうものが欲しい」と私が言うものは、作るのがとても困難だから、世の中に存在しなかったりする”(『毎日すること。ときどきすること』有元葉子著/講談社 より)と、ついには自らキッチン道具を作るようになった。それが「la base」である。

前編「すっきりと片付いた有元葉子のキッチン収納に、ツールスタンドが欠かせない理由」では、すっきりと片付いた心地よい家で暮らす有元さんが、たくさんのキッチンツールをコンパクトに収納するためのツールスタンドを考案。美しく、使いやすく、お手入れしやすいに加え、「孫、ひ孫の代まで、変わらずに使える」するためのプロジェクトは順調にスタートしたように思えた。

だが試作を頼んだ有元さんに、まさかの結果が伝えられる。
有元さんのインタビューよりご紹介する。

「そんなに大きいのは多分できない…」

「試作は大中小の3種類のサイズをお願いしました。お玉やレードル、網じゃくしを入れる大、へらやパレットナイフ、スパチュラ用の中、計量スプーンなどをまとめる小。使う時のことを考えると、大は小を兼ねられないのです。
ところが中と小はすぐできたのに、大はできないという連絡がきました。大きいのを作ろうとすると、口が花弁のように大きく開いて割れてしまうというのです。

 

『なんとか頑張ってもらえないですか』とこちらも粘りました。でも花弁がばらばらになったような無残な姿を見せられて、『やっぱり難しい』。
継ぎ目なしの大きなステンレスのコップ型が、これまで世の中に存在しなかった理由がわかりました。

高い技術力と豊富な経験を持つ新潟県燕市のメーカーでも、当初はできなかったという。photo:『ちゃんと食べてる?』より

それでも『なんとかできる方法があるんじゃないかしら』なんて言えた立場じゃないのに、『できると信じています』と待ち続けました。
するとある日『できました』と連絡をいただいたのです。作り手の方がどれだけ頑張ってくださったことか。たぶん1年くらいかかったのではないかしら。
どんな方法でブレイクスルーしたのかは私にはわかりませんが、とにかくできた。
とっても嬉しかったのと、とうとうやってくださったんだと感慨深い想いを抱いたのを覚えています」