今も昔も戦争には金がかかる。
戦に明け暮れた戦国時代、戦国大名たちは国の経営手腕を磨き、資金調達に精を出さねば生き残れなかった。
刀、弓懸、槍、馬……武器の値段はいったいどのくらいだったのか?史料から読み解いてみよう。
※本記事は川戸貴史『戦国大名の経済学』を抜粋・編集したものです。
刀のおねだんは贈答品から実用までさまざま
戦国時代というからには、戦争を抜きにしては語れない。戦国大名が、戦争を遂行する軍事勢力として君臨したことは言うまでもない。
そこで、まずは戦争にかかる経費に注目し、戦国大名の経済事情を具体的に見ていこう。ただし、必ずしも著名な戦争をすべて取り上げるわけではなく、中にはごく小規模な戦争を取り上げることもあることをご了解いただきたい。
戦争に必要なのは何よりも人である。それは戦闘員(兵)と、後方での物資運搬兵站を担うために動員された非戦闘員(主に百姓)とに分けられる。兵は平時から大名に仕える武士が中心だが、戦時に自ら費用を賄うために彼らには所領が与えられていた。つまり、武具や食糧は基本的に個々の兵が自前で準備することになっていた。ただし、思わぬ長期戦を強いられた場合には、大名が兵糧を補填することになった。それを踏まえた上で、当時の末端の経済事情をイメージすべく、兵が備えた武具の当時の価格がいかほどだったかを考えてみよう。
武器でまず必要なのは、刀である。当時の武士は、太刀と打刀(うちがたな)の二本を差すのが一般的だった。もちろんその価値は格差があり、著名な刀工が製造したような、権力者の間で贈答品に使われるような美術的価値の高い太刀は、およそ10貫文程度で取引されていた。現在の価値にすると60万~70万円程度であり、美術品としてのイメージに合う。
「万疋之太刀(まんびきのたち)」(「朝倉孝景条々」)という表現があるように、極端なものになると一万疋(一疋は10文なので、10万文、つまり100貫文)もの価値が与えられるような高級品もあったようだ。現代での600万~700万円といったところか。