善の皮をかぶった暗いもの

新年度スタートの慌ただしさも一段落してきた5月。
新しく知り合った同級生や同僚、そして隣人やママ友の言動が気になり始めるのは、今頃からかもしれない。

『赤い隣人~小さな泣き声が聞こえる』(野原広子著/KADOKAWA)は、幼い息子と新しい街に引っ越してきた主人公の希(のぞみ)と、隣人やママ友たちとの関係を描いたコミックエッセイだ。

『赤い隣人~小さな泣き声が聞こえる』(野原 広子著/KADOKAWA)


同じ保育園に通う娘を持つ隣人でママ友の千夏は何かと親切で、人目を気にする希も徐々に親しくなっていく。
だが深夜にどこからか聞こえてくる奇妙な音、親しげにしながら希の事情を聞き出そうとする階下の主婦と、隣人たちが気になり始める希。やがて仲良くしていた千夏にも違和感を感じるようになって…。
一つ一つは他愛もないことでも、近所にいれば嫌でも聞こえてくる。それが「隣人」トラブルの始まりなのである。

 

『赤い隣人~小さな泣き声が聞こえる』
※1話読んだら「次のエピソード」を押すと続けて2話以降も読めます

2021年『消えたママ友』『妻が口をきいてくれません』の2作で第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した著者の野原広子さんは、これまでも『人生最大の失敗』や『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』などで、家庭や子育てをめぐる人間関係を多く描いてきた。
今年2月に刊行した『赤い隣人~小さな泣き声が聞こえる』も、圧倒的なリアリティが多くの共感を呼び、ツイッターでも「課金したことないのに続きが気になりすぎて一気読み。最後の展開、怖すぎて泣いちゃった」「いわゆるドロドロとは違う,私たちの中の善の皮を被った暗いものを感じる」など話題になっている。

野原さんはなぜ恐ろしい隣人との関係をテーマにしようと思ったのか。リアルすぎる登場人物にモデルはいるのだろうか。野原さんへのインタビューと、漫画の無料試し読みをお届けする。

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自覚のない虐待

野原さんは今回のテーマについて、こう話す。
「虐待事件のニュースの中で、虐待をしたといわれている親の『躾のつもりだった』という言葉を聞いた時、もしかしたら言い逃れではなく、本当に疑いもなくそう思っていたのかもしれない。そういったことを編集さんと話していました。
そこから『自覚のない虐待』というキーワードが出てきて、『虐待』がテーマとなりました。

またニュースでは、事件について、ご近所の方がそれぞれインタビューに答えていました。虐待が起きてしまった家庭のことを、『いい家族だと思っていた』と言う人、『何か様子がおかしいと感じていた』という人、『もっと関わってあげてたら良かった』という人、いろいろいて…。
近所に住んでいても家の中のことまでは見えないし、どんな関わり方が正解かもわからない。どうしたらいいんだろう? と考えたことから、『隣人』がもうひとつのテーマになりました」
私たちが虐待を知る時は、いつも事件が起きた後である。だが野原さんが言うように、最初からいじめたり、殺そうと思ったわけではなく、本当に「躾のつもり」だったら?
「善」のつもりでやっている「隣人」に声を掛けるのは、なかなかの勇気が必要かもしれない。

 

主人公にモデルはいるのか

そう真剣に考えてしまうほど、『赤い隣人~小さな泣き声が聞こえる』に出てくる登場人物はリアルである。詮索好きな隣人や自分をよく見せたいママ友、不安からおねしょする子どもなど、『赤い隣人』の登場人物には、ズバリモデルはいるのだろうか。
「これまで何回か引っ越しをして、いろいろなタイプのご近所の方がいました。例えばいつも声をかけてくれる近所のおばさん。それは親切でもあり、詮索好きでもある。またいつも家族の自慢話をする人。決して悪意があるわけでもなく、こういうタイプの人っているよな…。という感じで、登場人物の参考にさせてもらったりしました」

そしてもう一つ気になるのが、タイトルだ。
50代以上の読者には、「赤い」ミステリーと聞くと、かつてのテレビドラマ「赤い」シリーズをつい思い出してしまう。
「『赤い』とつくと、不穏なイメージを想像するところは似ているかもしれません。隣人ものをやろうと相談した編集さんも同年代なので、『赤い』シリーズのことは話題に出ました。
そもそも、『赤』って色々想像させるものがあるのではないかと感じていまして。
『隣の芝生は青い』の反対のような意味合いにも取れるかな?とも。
また、赤い色については、”かわいい”色に見えるのか、そうでない色に見えるのか、『赤い』の意味はそれぞれ想像していただけたらいいです」