「とにかくお金、なんです」華やかな芸能界を生きる女性タレントの歪んだ金銭感覚...母親と過ごした異常な幼少期
今や社会問題となっている「毒親」の存在。その呪縛から逃れるためには、現実的に何を行えばよいのか――本記事では当事者支援に携わってきた藤木美奈子さんによる『親の支配 脱出マニュアル』より解説する。
TVタレントの仕事を中心に活躍するマリさん。彼女は幼い頃から「酒とカネ」にまみれた世界で生きてきた。シングルマザーとなった母親の派手な人付き合いとアルコール依存、その代償はお金にまみれた何不自由ない贅沢な暮らし。いわゆる「子供らしい」扱いを受けたことは一度もなく、与えられたものはお金のみ。母親の愛情なしで育ったマリさんの心は空虚そのものだった。支えてくれる男がいなければ女は生きることができない、世の中はお金が全てだと信じ込む彼女の精神安定剤は大量のアルコール。こうした母親譲りの価値観の連鎖が、彼女の人生を非情にも狂わせる。
思いがけない苦悩
そんな彼女が飛び込んだのは、華やかな芸能界。彼女の愛らしい笑顔は業界ですぐに評判になりました。次々に仕事が入って、瞬く間にあちこちの番組で彼女を見かけるようになったのです。レギュラー番組を持ち、引っ張りだこになったマリさんは、初めて晴れ晴れとした気持ちになれたと言います。
「いつも足手まといだったあたしが、やっと母親に自分を認めさせることができた、違います?」
マリさんはその後、結婚することになりました。大手商社の社員からプロポーズされたのです。有名私大を卒業した端整な顔立ちの男性で、マリさんはやっと幸せをつかんだように見えました。
しかし、結婚して間もなく言い争うことが増え、3年を待たずに離婚に至ります。ふたりの間に生まれた息子をめぐっては、お互いに「いらない」と押しつけ合い、その結果、マリさんがしぶしぶ引き取ることになりました。

それでも、お金に不自由はありませんでした。すぐに新しい恋人ができたのです。相手は不動産業を手広く営む男性で、マリさんとは父親ほど歳が離れた人でした。まっさらの外車をプレゼントされ、タワーマンションの広い部屋で息子とふたりの暮らしが始まりました。
ところが、その頃からマリさんは、思いがけない苦悩に見舞われるようになります。
「あるとき、刷り上がった新番組のポスターの写真を見てたんですね。きれいな衣装をまとって微笑むあたしがいる。今までたくさんの人に『あなたの笑顔は人を幸せにする』と言われてきた。でも、あたしの心のなかは空っぽ。突然、それに気づいたんです」
世間の評価と、実際の自分自身との間のギャップ──マリさんは苦しみ始めました。