生命は存在しないとされていた海底下の世界に、近年、地上をも超える生命圏が存在することがわかってきました。食べるものもほとんどない、それどころか、呼吸すらもままならない高圧・高温の極限環境に生きる生物とはいったいどのようなものなのでしょうか?
『DEEP LIFE 海底下生命圏』では、この海底地下生命の謎を解明するために行われた「海洋科学掘削」の歴史から、海底下生命圏の謎に迫ります。
今回は、生命が存在できる温度限界を調査した研究を紹介します。
*この記事は、『DEEP LIFE 海底下生命圏』をもとに、再構成してお届けします。本書の詳しい内容は、こちらでご覧になれます。
生育温度で微生物を分けると
微生物学の教科書を見ると、自然界の微生物は、好冷菌、常温菌、好熱菌、超好熱菌というように、生育できる温度範囲によってタイプが分けられています。

好冷菌や常温菌は、私たち人間が衣服を調節するなどして暮らせる温度範囲、氷点下から45℃くらいまで生息できる微生物たちです。
そのなかでも、好熱菌は、45℃くらいより高い温度を好む微生物たちです。お風呂の温度よりは高く、私たちには耐え難い熱さですが、好熱菌は、例えばサイレージと呼ばれる飼料作物の発酵槽や堆肥の中、湯気が立つ温泉の流路などに生息しています。
アッツアツの世界を生きる「超好熱菌」
さらに、超好熱菌は、90℃以上のアッツアツの熱水に生息する、いわゆる「極限環境微生物」のひとつです。これまでに、陸上の火山や、ボコボコと煮え立つ温泉、深海の熱水噴出孔などで発見されています。いくつかの超好熱菌は、自然界から分離されていて、実験室で培養できます。現在のところ、培養可能な超好熱菌の生育限界温度は、122℃という報告があります。それらの超好熱菌は、水素と二酸化炭素からメタンをつくるメタン生成アーキア(古細菌)などですが、培養できていない超好熱菌も多く、その実態はよく分かっていません。

海底下では、深くなるにつれて温度が上昇します。海底下に広がる生命圏は、温度によってどのような影響を受けているのでしょうか?