民主主義とは何か? 民俗学者・宮本常一が見た「日本の寄り合い」の可能性

みんなが納得するまでとことん話し合う

日本列島を旅し、「庶民の歴史」を聞き集めて、一様ではない「日本」のあり方を追究し続けた民俗学者・宮本常一。

代表作『忘れられた日本人』を読み解きながら、彼の思想に迫るのが畑中章宏氏による新刊『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』だ。

宮本が見た、日本の共同体の伝統的な「民主主義」の在り方を、本書から抜粋してお届けする。

※本記事は畑中章宏『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』から抜粋・編集したものです。

寄り合い民主主義

『忘れられた日本人』に収録された「対馬にて」の「一 寄りあい」は、1950年(昭和25)に八学会連合の対馬調査に民族学班として参加した宮本が仁田村伊奈(現・対馬市)で体験した寄り合いの話である。

この紀行文は、日本の共同体が継承してきた熟議による民主主義、満場一致の民主主義の一例として取り上げられることが多い。宮本が対馬で見聞した「民主主義」はこんな段階を踏むものだった。

伊奈の区長の家を訪ねていった宮本は、区長の父から区有文書の存在を知る。翌朝、借用を願い出ると、村の寄り合いを中座して戻ってきた区長は寄り合いにかけなければならないと言って出て行った。午後3時を過ぎても区長が戻ってこないので、しびれを切らした宮本は寄り合いが開かれている神社に出向いて行った。

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寄り合いでは板間に20人ほど、その外にも多くの人が詰め、区有文書の貸し出しや、さまざまな議題について、朝からずっと協議していた。そして訪れてから1時間ほど経って、区長が一同から同意を取り付け、ようやく借用することができた。

「村でとりきめをおこなう場合には、みんなの納得のいくまで何日でもはなしあう。はじめには一同があつまって区長からの話をきくと、それぞれの地域組でいろいろに話しあって区長のところへその結論をもっていく。もし折り合いがつかねばまた自分のグループへもどってはなしあう」

みんなが納得のいくまで話し合い、結論が出ると守らなければならない。

「理窟をいうのではない。一つの事柄について自分の知っているかぎりの関係ある事例をあげていくのである」

宮本は本編を、「昔の村の姿がどのようなものであったか、村の伝承がどのような形で、どんな時に必要であったか、昔のしきたりを語りあうということがどういう意味をもっていたか」を知ってもらうために書いたという。

そして、そういう共同体ではたとえ話、体験したことに事よせて話すのが、他人の理解も得られやすく、話すほうも話しやすかったのである。また、近世の寄り合いでは郷士も百姓も村落共同体の一員として互角の発言権をもっていたと考えられるのだ。

村の伝承に支えられながら村の自治が成り立っていた。すべての人が体験や見聞を語り、発言する機会をもつことは、村里生活を秩序だて、結束を固くするのには役立った。しかしいっぽうで、村が前進し、発展していくための障碍を与えていたことも宮本は指摘している。

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