伝説のマトリが、韓国反社の実態を明かす――地下に潜る組織とナルコス

ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図(4)
禁断の世界麻薬マーケットの暗部と、世界の反社がどうつながっているのか? 伝説のマトリだから書ける「人類、欲望の裏面史」、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』より、公開コードギリギリのエピソードをピックアップ!
ナルコスとは――「感覚を失わせる」という意味のギリシャ語のナルコン「narkoun」に由来する英語「narcotics」から派生したスラングで、海外ではドラッグとともに麻薬を意味するものとして認知されている。
前回記事:<「ヤクザはラスト・サムライなのか」山口組ハワイ事件から見る、海外の捜査官を困惑させる“ヤクザ”の存在

韓国の反社の実態

韓国の犯罪組織についても少し説明したい。

当然ながら韓国にも反社会的組織が存在している。組暴(チョポク)、または暴力団(ポンニョクタン)という集団である。正式な名称は組織暴力輩と書くようだが、これが世間で一般的に知られている呼び名である。ただし、日本のヤクザが暴力団と名乗らないのと同様に韓国の組織のメンバーたちは自身を乾達(コンダル=遊び人)と呼ぶ。暴力でシノギを得るという組織構造は日本のヤクザとなんら変わりはない。

※画像はイメージです Photo by iStock

日本組織との大きな違いは法律的な線引きになる。組暴は組織に所属しているだけでも取締りの対象となり、組員と判明すれば逮捕されることもある。いわばカルテルやマフィアに近い立ち位置にいるグループなのだ。

組織のトップは頭目(ドゥモク)と呼ばれ、その下に顧問、幹部、隊長といった役職が並ぶ。組暴は地元の不良グループからメンバーを引き抜き、付き人のようにして先輩が面倒を見る。晴れて組織入りを果たすと今度は共同生活を2年ほど送る。そこで組織の礼儀作法や組織内のルールを叩きこまれるというわけである。肩書も見習い時代は収拾隊員、入隊が認められれば行動隊員へとランクアップする。

組暴のルールは大きく二つと言われている。一つは目上の人間には最上の礼儀を尽くす。もう一つは抗争では命を捧げる覚悟を持つ。いずれも日本のヤクザ組織と相違はない。かつてはカタギに手を出さないという掟もあったが、組員による一般人への恐喝や暴行事件も明らかになっており、表向きのものに過ぎない。

1960 年代まで組暴は政界と密接に繋がり、政治家の周辺者でありながら暴力的に利益を奪う組織として機能していた。政治的に不安定だった当時は政治家と組暴は表裏一体の役割を果たしていたようだ。

しかし、1970年代に入ると山口組を筆頭にした日本組織の影響もあってか、建設業界から芸能まで様々なシノギに進出し、栄華を極めていく。日本向けの覚醒剤の密造もそんな組暴の重要なビジネスの一つであった。巨大化した各組織は次第にシノギをめぐっての強烈な縄張り争いを繰り広げていく。

しかし「漢江の奇跡」とも言われる1980年代の急速な経済成長によって組暴の時代は突如、終焉を迎える。国内に経済的な余裕が生まれると市民の中でも犯罪組織の脅威は消え失せ、徐々にその勢いを失っていった。

極めつけは盧泰愚大統領による特別宣言だった。

1990年、政権に対するクーデター未遂が発覚し、韓国国内で大きな社会問題となった。さらに計画には組暴も組織として参加していたことが判明し、政府世論から厳しい目を向けられることとなる。

この事件がきっかけとなり、当時の盧泰愚大統領は暴力廃絶宣言を発令し、政府は1年間で200件余りの関連事件を検挙、700人もの逮捕者を出すなど組暴に対して徹底的な摘発を行った。

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大