韓国社会で広がる「キムチ・プレミアム」——伝説のマトリが語る、韓国セレブにまで広がる麻薬汚染の実態
ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図(5)※ナルコスとは――「感覚を失わせる」という意味のギリシャ語のナルコン「narkoun」に由来する英語「narcotics」から派生したスラングで、海外ではドラッグとともに麻薬を意味するものとして認知されている。
前回記事:<伝説のマトリが、韓国反社の実態を明かす――地下に潜る組織とナルコス>
キムチ・プレミアム
前回記事で紹介した薬物汚染にもインターネットが関与している。日本同様に韓国のSNSでも麻薬の売り買いが平然と行われ、若者を中心に爆発的な広がりを見せている。
「自宅で、SNSにより麻薬をピザ1枚の値段で直接購入するのが現状だ」
国内の麻薬捜査を取り仕切る大検察庁のイ・ウォンソク検事総長は自国の麻薬事情をそう表現した。この指摘こそ韓国の麻薬密売の実情とも言える。

特に覚醒剤の流行は著しく、それを象徴するように「キムチ・プレミアム」なる言葉まで登場した。
もともと「キムチ・プレミアム」は暗号資産の業界で使われていた専門用語である。韓国では国境を越えた資産移動を制限する独自の規制によって、相対的に暗号資産の国内相場が海外よりも割高になる傾向にあった。当然、世界の相場よりもお得な暗号資産は韓国でも人気を博し、この特殊な現象をプレミアがついた韓国の暗号資産という意味を込め「キムチ・プレミアム」と総称するようになったのである。
だが、同じ取引が覚醒剤でも起こっていた。近年、韓国では麻薬の中でも覚醒剤の需要が高まり、末端価格は1グラム25万ウォン(約2万5800円)まで高騰。覚醒剤文化が根強い日本には及ばないにしてもこの相場は諸外国に比べても明らかに毛色が違う。アメリカではおおよそ3万5000ウォン(約3600円)、タイにいたっては3万ウォン(約3100円)程度が末端価格とされており、韓国とは8倍近い開きが生まれている。この様相を暗号資産の世界にたとえ「キムチ・プレミアム」と呼ぶようになったのである。しかし、上乗せ分は犯罪組織が決めた幅に過ぎず、まやかしというほかない。覚醒剤における「キムチ・プレミアム」は暗号資産業界とは似て非なるものである。
むしろプレミアムがついてしまったのは韓国市場のほうだった。
諸外国よりも高値で売れるマーケットは国際組織にも狙われ、中国や東南アジアをはじめとする犯罪グループが続々と進出。外よりも高価となった暗号資産は麻薬売買での支払いに使われるようになり、犯罪組織にさらなる利鞘を与える結果にもなっている。2021年の外国人による薬物事犯は前年より約20%増となる2339人と史上最多を記録。韓国は今、暴利を求める犯罪集団の格好の狩り場となってしまっているのだ。
かつての製造国は好景気と引き換えに国際組織から狙われる巨大なブラック・マーケットに変貌したのである。