2023.05.22
# 小説

第66回群像新人文学賞受賞!408号室の入れ替わる住人たち…受賞作「もぬけの考察」試し読み

第66回群像新人文学賞は、選考委員の柴崎友香、島田雅彦、古川日出男、町田康、松浦理英子の5氏によって、村雲菜月さん「もぬけの考察」と夢野寧子さん「ジューンドロップ」に決定しました。村雲菜月さんの「受賞の言葉」と、受賞作「もぬけの考察」冒頭の試し読みを発売中の『群像』2023年6月号よりお届けします!
『群像』2023年6月号『群像』2023年6月号

受賞の言葉

2020年の夏頃、外へ遊びに行けなくて暇なので久しぶりに絵でも描こうかなと思ったのですが、新しく買ったパソコンにペンタブが繫がらず、ネットで原因を調べて試みたものの上手くいかず、叩いても冷やしても叱っても宥めてもどうにもならず、次第に腹が立ってきた私はペンタブを捨ててパソコンで小説を書くことにしました。

それまでは、美大出身なのだから、物語を創るなら漫画を描くべきだとずっと盲信していたのですが、一度も最後まで描き上げられたことはありませんでした。なので、初めて小説を最後まで書き上げてしまった時は、喜びとともに、ある種の才能のなさに気づき絶望した瞬間でもありました。その日から、小説は書けるところまで書けるようになりたいと強く思いました。

以前からすると信じられないほどの密度で小説と向き合った3年間の収穫として、書き続けていなければ決して出会えなかった人たちに、たくさんの言葉を教えていただきました。また、読み続けていなければ知ることもなかった、今はこの世界にいない素晴らしい作家に文章の中で巡り会うことができました。未熟な私の書いた小説が受賞するまでに至ったのは、きっとその人たちの言葉に支えられているからなのだと思います。

親しい友人たちや家族へ向けて書いてきた物語が、その枠を越えてまだ知らない貴方にまで届くこと、とても光栄に思います。このたびは、ありがとうございました。

村雲菜月(むらくも・なつき)
1994年北海道生まれ。28歳。
金沢美術工芸大学デザイン科視覚デザイン専攻卒業。会社員。

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