年々、深刻さを増していく地球温暖化による被害を食い止めるために国連が打ち出した「1.5℃の約束」というキャンペーン。しかし、1.5℃の約束? なにそれ?という方も少なくないはずです。そこで、各メディアがタッグを組み、メディアの気候変動報道を強化することを目的とした〈Media is Hope〉という組織が設立されました。
今回、その取り組みの1つとして、〈Media is Hope〉に賛同した各メディア(東京新聞、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日刊工業新聞社)の記者の皆さんとの座談会を実施。
前回に引き続き、2回目の本記事ではこれまで多くの気候変動にまつわる記事を取り上げてきたなかで実感した「多くの人に読まれる記事の傾向」や「企業の取り組み度合いの変化」など語っていただきました。

座談会に参加したメンバー
東京新聞・福岡範行さん、朝日新聞・香取啓介さん、毎日新聞・八田浩輔さん、日刊工業新聞社・松木喬さん、読売新聞・中根圭一さん、東京新聞・押川恵理子さん、Media is Hope・名取由佳さん、西田吉蔵さん、司会/FRaUweb編集部
▼始めから読む
1)冬の家は寒すぎる! 朝日、読売、毎日…新聞5社が目の当たりにした「地球温暖化」の現実
「他では絶対に読めない記事」が読まれる
――多くの人に読まれる記事には、何らかの傾向がありますか?
毎日新聞・八田浩輔さん(以下、毎日新聞・八田) そうですね、基本的に読まれた記事・数字が出た記事は、「他では絶対に読めないもの」が多いです。そこにいないと書けないもの・書けない視点ですね。少なくとも、私が書いたものについてはそうでした。たとえば1回目の記事で先ほどお話したグレタさんのインタビューもそうですし、気候変動の訴訟の大きな流れを作ったオランダの裁判もそう。法廷に外国人記者があまりいないなか、実際にそこに行って書いたものでした。

「『政府には気候変動の危機から国民を守る義務がある』 オランダ最高裁が画期的な判決」
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20191227/pol/00m/010/013000c
生活に紐づけたものは日本にいる記者がしっかり書いているので、僕は僕がやりたいことをやろう、という感じですね。
あとは数字やデータをただ並べるよりも、読みやすいよう「ストーリー」を意識したものは反響があります。最近では日本のアンモニア混焼への痛烈な批判を引き出した、米国のケリー特使のインタビューもよく読まれました。また、ウェブでは見出し、紙では記事の掲載面+大きさも重要だと思います。
――FRaUもお世話になっている、東京大学/国立環境研究所・江守正多先生の記事も興味深いものでした。
「『地球温暖化を食い止める』 発信する気候科学者を突き動かすもの」
https://mainichi.jp/articles/20221008/k00/00m/040/149000c
毎日新聞・八田 彼の生い立ちを含め、現在に至るまでのキャリアと葛藤、日本の温暖化政策の30年や世界の温暖化政策の変化などをクロスさせながら書きました。今、日本の気候変動のコミュニケーションの分野は、ほぼ彼が一人で担っている気がしますね。お話がわかりやすいので、メディアもつい江守さんに頼ってしまうのですが。
――江守先生に頼っている者の一人として、先生個人に焦点を当てた記事は新鮮でした。では次に、日刊工業新聞の松木さんの記事をご紹介したいと思います。
「電力価格が急騰中でも・・・安い電気を使ってCO2排出量を減らす工場の正体」
https://newswitch.jp/p/32659
日刊工業新聞社・松木喬さん(以下、日刊工業新聞・松木) うちは職場で読んでもらう新聞なので、職場でできる取り組みを書かせてもらいました。普段は企業のニュースや技術開発の記事が読まれ、こういう記事は上がってこないのですが、たまに上がってくるのを見ると、やはりこういう身近なテーマのものがいいのかなと思いますね。あとは、この武田薬品の記事もご紹介させていただきたいです。

「『紙カップゴミ』年6万個削減、武田薬品がリユースカップを職場に導入した理由」
https://newswitch.jp/p/35454
武田薬品の東京オフィスには1000人ほどの従業員がいるのですが、紙カップをプラスチックのリユースカップに切り替えたら、1年間で紙カップ60,000個を削減できたそうなんです。その取り組みを紹介したら、ものすごく読まれました。具体的な数字で見ると、そんなに捨てられていたのかと思いますよね。掲載後、リユースカップを推奨している団体のところに、「うちの会社でも導入したいのですが、どうしたらいいですか?」と結構な数の問い合わせがいったそうです。記事にして良かったなあと思いました。
――まさに読者の行動を呼び越した記事ですね。あとは海上農業の記事もありました。
「海上農業も…食料危機の克服に技術で挑むスタートアップの正体」
https://newswitch.jp/p/34070
日刊工業新聞・松木 海上だとちょっと蒸発したくらいの水で作物を育てられるので、海水をわざわざ脱塩して真水にしなくていい。気候変動に関する、土地の問題の解決になりますよという内容でした。