脳科学者の中野信子さんの著書『脳の闇』は、ハラスメント、承認欲求、プレッシャー、正義、ジェンダーなど、様々な切り口から「脳の暗部」を浮かび上がらせる一冊だ。
実はあとがきには「この本は、バカには読めない本になってしまった」という一文がある。では「バカ」とは何を指すのだろうか。
中野信子さんは今回のインタビューで「バカとは何か」というこちらの問いに対し、まずこう語った。
「脳は快楽に流されて、わかりやすい意見に飛びつきやすい。そして、いいことをすると快楽を得る。それと同時に「悪いこと」をした人を糾弾すると気持ちよくなるんです」
確かにSNSには正義を名乗って人を叩く人の姿を見ない日はない。そういう人を叩く行為が快楽になってしまっているということなのだ。では、快楽に流されないようにするにはどうしたらいいのか。
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インタビュー・文/前川亜紀
私たちの脳は無自覚に快楽に乗っ取られてしまう
――「バカとは何か」というこちらの問いに対し、「脳は快楽に流されて、わかりやすい意見に飛びつきやすい。そして、いいことをすると快楽を得る。それと同時に『悪いこと』をした人を糾弾すると気持ちよくなる」ことを解説いただきました。これを知るだけで、正義という快楽に流される「バカ」にならないための自制ができるような気がします。
そうとも言えますが、人間は自分が思っているほど単純でも扱いやすくもありません。「バカ」という種類の人間がいるというより、いかなる人であっても「バカ」という状態になり得る、という見方のほうが実情かと思います。たとえば、いざその場に身を置くと、その場の雰囲気に飲み込まれて、自分では決してそんなことをしないはずだと固く信じていたようなことをしてしまっている自身を発見する、ということは多々あるだろうと思います。
自分自身をあまり過信せず、できれば疑ってかかるといいと思いますよ。私たちの脳は想像以上に、周囲の情報に影響されやすいものですから。
どんなに自制心があり、自分は賢いという自信があったとしても、人間の脳を持っている限りは、無自覚に快楽に乗っ取られてしまうものだと思っていた方がいい。知識や警戒心などで変えられるものではありません。我々という生き物の仕組みなので、どうにもならない。それが、脳の厄介なところです。
