近くの漁船が、なぜか突然「ひっくり返った」…その時、船長がとった「まさかの決断」

伊澤 理江

第31寿和丸に会社と海保への連絡を頼み、自らは即座に救助へ向かおう、と。大急ぎで船内に指示を出す。

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第6寿和丸の動きが急に慌ただしくなった。船員たちが出航配置につく。船長はブリッジとその上の魚見台を往復する。

急がないといけない。

とにかく、急げ。

パラ泊を中止するには、まずメインエンジンをかける。そして海中に沈めた400キログラムほどの重さの巨大なパラシュート・アンカーを巻き上げて収容しなければならない。出発に必要な作業を終えるには、およそ15分かかる。船長や他の乗組員は焦りながら、急いで作業を続けた。

第6寿和丸のスクリューが回り始めると、船長は再び魚見台に上がり、第58寿和丸の方向に双眼鏡を向けた。小雨交じりの曇り空の下、6キロほど先に視線を凝らす。約45度の角度で船首が海面下に沈んでいた第58寿和丸。さっきまで見えていた船体は、このわずかな間にもう見えなくなっていた。

弟の乗る船が……

第6寿和丸から事故の知らせを受けた第31寿和丸には、新田勝が乗り組んでいた。

「新田3兄弟」の一番上、双子の兄である。第58寿和丸には弟の進が乗っている。

通信長・杉山三夫からスタンバイ(出航配置)の指示が出たとき、新田勝は「凪が良くなってきたんで稼ぐ(漁をする)んだな」と思った。

次の瞬間、アンプ(拡声器)を通して聞こえてくる船長の言葉に耳を疑った。第58寿和丸がひっくり返ったかもしれないから急いでパラを上げろ、と言っている。

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