第66回群像新人文学賞受賞!六月の鈍い空に手を伸ばす少女たちの邂逅...受賞作「ジューンドロップ」試し読み
第66回群像新人文学賞は、選考委員の柴崎友香、島田雅彦、古川日出男、町田康、松浦理英子の5氏によって、村雲菜月さん「もぬけの考察」と夢野寧子さん「ジューンドロップ」に決定しました。夢野寧子さんの「受賞の言葉」と、受賞作「ジューンドロップ」冒頭の試し読みを発売中の『群像』2023年6月号よりお届けします!
受賞の言葉
受賞の連絡を頂いた時、長年の夢が叶ったことに歓喜すると同時に、何故私ばかり幸福なのだろう、と思いました。
海の向こうでは日常的に戦争や弾圧が行われていて、この国でも残酷な出来事が絶えません。こんなにも世界は哀しいのに、どうして私ばかり恵まれているのだろう、と偽善かもしれませんが、そう思ったのです。
生きるということは本当に理不尽で、やりきれないことだらけで、どうすればいいかわからず、祈るような、縋るような思いで、一本の物語を紡ぎました。
罪悪感で編み上げた物語は、私にまた別の罪悪感をもたらしました。
けれど、罪悪感に勝る喜びを与えてくれたことも、また事実なのです。
この幸運をもたらしてくださった全ての方に感謝いたします。
物を書くことが好きで、好きで、ただそれだけの存在だった私に、物語る場を与えてくださって本当にありがとうございます。
何故こんなにも世界が哀しいのに、私ばかり幸せなのか、その答えは未だ出ません。
それでも、私は願います。
私はとても無力で、自分のことだけで精一杯のような人間だけれど、それでもいつの日か、生きることは苦しみをもってしてもなお素晴らしいことなのだと、証明し得る物語を書くことができたなら。
今日、目が覚めると、カーテンがマーマレード色に染まっていました。窓を開けてベランダに出ると、当たり前のように朝が来ていました。太陽を見て、美しいと思いました。
私は今、とても幸せです。
夢野寧子(ゆめの・ねいこ)
1986年東京都生まれ。36歳。
東京女子大学文理学部社会学科卒業。
1986年東京都生まれ。36歳。
東京女子大学文理学部社会学科卒業。