2023.05.23
# 小説 # 夢野寧子

第66回群像新人文学賞受賞!六月の鈍い空に手を伸ばす少女たちの邂逅...受賞作「ジューンドロップ」試し読み

第66回群像新人文学賞は、選考委員の柴崎友香、島田雅彦、古川日出男、町田康、松浦理英子の5氏によって、村雲菜月さん「もぬけの考察」と夢野寧子さん「ジューンドロップ」に決定しました。夢野寧子さんの「受賞の言葉」と、受賞作「ジューンドロップ」冒頭の試し読みを発売中の『群像』2023年6月号よりお届けします!
『群像』2023年6月号『群像』2023年6月号

受賞の言葉

 受賞の連絡を頂いた時、長年の夢が叶ったことに歓喜すると同時に、何故私ばかり幸福なのだろう、と思いました。

 海の向こうでは日常的に戦争や弾圧が行われていて、この国でも残酷な出来事が絶えません。こんなにも世界は哀しいのに、どうして私ばかり恵まれているのだろう、と偽善かもしれませんが、そう思ったのです。

 生きるということは本当に理不尽で、やりきれないことだらけで、どうすればいいかわからず、祈るような、縋るような思いで、一本の物語を紡ぎました。

 罪悪感で編み上げた物語は、私にまた別の罪悪感をもたらしました。

 けれど、罪悪感に勝る喜びを与えてくれたことも、また事実なのです。

 この幸運をもたらしてくださった全ての方に感謝いたします。

 物を書くことが好きで、好きで、ただそれだけの存在だった私に、物語る場を与えてくださって本当にありがとうございます。

 何故こんなにも世界が哀しいのに、私ばかり幸せなのか、その答えは未だ出ません。

 それでも、私は願います。

 私はとても無力で、自分のことだけで精一杯のような人間だけれど、それでもいつの日か、生きることは苦しみをもってしてもなお素晴らしいことなのだと、証明し得る物語を書くことができたなら。

 今日、目が覚めると、カーテンがマーマレード色に染まっていました。窓を開けてベランダに出ると、当たり前のように朝が来ていました。太陽を見て、美しいと思いました。

 私は今、とても幸せです。

夢野寧子(ゆめの・ねいこ)
1986年東京都生まれ。36歳。
東京女子大学文理学部社会学科卒業。

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