徳島市内から車で約2時間半はかかる場所、ここは日本三大秘境のひとつ、祖谷周辺。人びとは山の急斜面に家を築き、畑をつくり、集落内の高低差はなんと390mあるところも! まるで天空に生きるような人たちの、美しくも力強い暮らしに出合う旅をご紹介します。
天空の集落で連綿と
受け継がれてきた暮らし

曲がりくねった山道から集落に入ると、道はさらに細く急になった。あたりの斜面には、へばりつくように石積み(石垣)で支えられた畑が広がり、その間に家々が建っている。

ここは美馬郡つるぎ町の三木枋集落。永続的に暮らすのはたった3世帯だ。そのひとつ、磯貝家では、勝幸さん、ハマ子さん夫妻が農業をしながら、農家民宿〈そらの宿 磯貝〉として旅人を受け入れている。

にし阿波地域の険しい山の斜面中腹には、こうした集落が数多くある。本来は耕作が難しい急斜面に畑をつくり、知恵を絞って自給自足的な農業を行ってきたのだ。世界的にも珍しい独自のスキルと土地の活かし方が評価され、にし阿波の「傾斜地農耕システム」は2018年、世界農業遺産に認定されている。