自分の判断が全体を危うくしているにもかかわらず、失敗の責任はすべて下の者になすりつけ、平然としている―そんな権力者はいつの時代でも存在する。彼らの「歪んだ」頭の中を解き明かす。
クソ馬鹿なジイさんめ!
「『ジイさん』が最終的に"クソ馬鹿"であることが明確になったら、国はどうすればいい? 戦争にどうやって勝てばいいのか?」
ロシアのSNS「テレグラム」の動画内でこう怒りをぶつけたのは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者でオリガルヒ(新興財閥)のエフゲニー・プリゴジンだ。
動画が公開されたのは、戦勝記念日にあたる5月9日のこと。そんな国の祝日に水を差すかのように、彼が口汚く「クソ馬鹿なジイさん」と罵る相手こそ、ウラジーミル・プーチン大統領その人だ。
プリゴジンが激昂するのは無理もない。ウクライナとの戦争が長期化する中、要衝バフムトの前線を維持してきたワグネル。しかし激戦の中、弾薬が底をつき始めていた。

「弾薬が70%足りない。ショイグ(国防相)、ゲラシモフ(参謀総長)! 弾薬はどこにあるんだ」
5月5日、プリゴジンが必死に訴えると、後日、弾薬が届いた。ところが、肝心の量は要求のたった10%。それどころか、「バフムトの陣地を離れたら、祖国に対する国家反逆罪になる」という脅し付きだったのだ。
「この戦争のみならず、シリア内戦の時も、プリゴジン率いるワグネルはロシアの正規軍よりも最前線に立って戦ってきました。それもすべては、『盟友』プーチンのために他なりません。しかし、ここ最近のやり取りから、プーチン側はプリゴジンを切り捨てたように見えます」(筑波大学名誉教授の中村逸郎氏)