2023.05.25
# 戦争 # ロシア

「ブリコジンに弾薬を渡すとロシアに攻め入るのでは」「ワグネルを切り捨てるのは正気じゃない」いまプーチンと「尻尾切り大国ロシア」で起きている疑心暗鬼合戦

週刊現代 プロフィール

肥大するナルシシズム

普通の人間であれば、人格を疑われるような責任逃れはそうできない。だが、独裁者は良心の呵責なく尻尾を切り取り、「すぐにまた生えてくる」とばかりに平然としている。そこには、どんな心理が働いているのか。

軍事心理学が専門である同志社大学教授の余語真夫氏が解説する。

「多くの独裁者に共通するのは、サイコパシー(精神病質)、マキャヴェリズム(権謀術数主義)、そしてナルシシズム(自己陶酔症)の3つの特性で構成される『ダーク・トライアド』というパーソナリティ特徴を持つということです。この3つの特性はすべて、他者への無関心や冷淡さに向かう傾向があり、自分の行動で他人に不利益が生じようとも、罪悪感を持つことは一切ないのです」

心理学の世界では、「悪の3大気質」とも呼ばれるダーク・トライアド。中でも、ナルシシズムという特性だけは、時代を問わず、ほぼすべての独裁者が有している。そう指摘するのは、早稲田メンタルクリニックの精神科医・益田裕介氏だ。

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「独裁者は自分の目的を達成するため、部下を捨て駒のように扱うのが常です。その結果、次第に周囲は本音を言わなくなっていき、孤独感が募ります。すると、その寂しさを紛らわす心理作用として、自己暗示的に『ナルシシズムの強化』が行われるのです」

こんなプレッシャーに耐えられるのは自分しかいない。周囲は無能な人間ばかり。自分は運命に選ばれている。こうしたナルシシズムは、重度の人間不信と背中合わせだ。

「こうなると、もはや猜疑心の塊となり、誰も信じられなくなってしまう。だからトカゲの尻尾切りも平気で行えるわけです。この精神状態に一度なってしまうと、元に戻ることはほぼありません。プーチンも今、そういった状態にあるのでしょう」(益田氏)

すでにプーチンは、プリゴジンに次ぐ新たな「トカゲの尻尾」を探しているかもしれない。

「週刊現代」2023年5月27日号より

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