「油で真っ黒の遺体」になった仲間たちと帰還…報道陣の前で顔を覆った生存者たち

伊澤 理江

「亡くなった人たち、拭いてあげていいですか」

遺体はいずれも全身、真っ黒だった。遺体を収容した後、第6寿和丸船長の今野多喜郎は、小名浜に向かう船内から海上保安部に連絡を入れた。遺体が真っ黒で、居たたまれなかったからだ。

「亡くなった人たち、拭いてあげていいですか」

「そのままにしてきてほしい」

海保としては、事故捜査の観点からも現状に即した状態にしておきたかったのだろう。しかし、それでは仲間が気の毒すぎる。今野がそれを訴えると、海保の係官は「それなら携帯でもなんでもいいから、写真を撮ってから拭いてあげてほしい」と伝えた。その言葉を聞いて、今野らは写真を撮り、4人の亡骸の顔をタオルで拭ってやったという。

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6寿和丸は単調なエンジン音を響かせながら、真っ暗な海上をひたすら走っていた。途中、船舶電話に報道機関から取材の電話が入り、誰かが対応していたことを豊田らは覚えている。

6月24日朝8時。

救助された3人を乗せた第6寿和丸が小名浜港に着いた。犬吠埼沖での天候とは打って変わり、小名浜はよく晴れていた。

豊田ら3人が岸壁に目をやると、大勢の人が目に入った。新聞・テレビの記者やカメラマン、乗組員の家族、漁協関係者。大型の三脚にカメラを据えたテレビ局のクルーも見える。

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