カメラのシャッター音に囲まれ、生存者は顔を覆った
第6寿和丸が接岸すると、まず、福島海上保安部の係官が乗り込んできた。そして、青いビニールシートで船の出入り口を覆う。生存者の下船や遺体搬出の様子を報道機関などから少しでも遮るためだ。
3人は船内で簡単に身元を聴かれ、健康状態の質問にも答えた。15分ほどすると、豊田たちはそれぞれ係官に支えられ下船していく。帽子をかぶり、タオルで顔を押さえながら、用意された車へと足早に向かう。テレビカメラが回り、カメラのシャッター音が鳴る。

岸壁の一番前に社長の野崎哲がいた。前日と同じ、ブルーのポロシャツ姿。野崎から「ご苦労さま。大変だったな」と声をかけられ、両足で陸を踏んだ3人は助かったことを改めて実感した。
手配された車に乗ると、大道の姉が駆け寄る。窓ガラスをたたいて、手を振った。後部座席の大道は、姉の口元が「大丈夫?」と動くのを見た。その目に涙が浮かんでいる。生存者の下船が終わると、第6寿和丸の船内に棺が運び込まれた。やや時間が空き、遺体が運び出されてくる。野崎も加わり、棺に手を添えた。心配そうに見守っていた家族たちから嗚咽が漏れ、それが岸壁に広がった。
第6寿和丸は接岸から2時間後の午前10時、捜索のため再び現場海域へ向けて出港した。
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