デイサービスから母が脱走

5月5日の午後、認知症の母がデイサービスから姿を消した。15時すぎ、コンサートを楽しんだあと、満ち足りた気分でスマフォのスイッチを入れると弟から不穏なメッセージが入っていた。

「婆さんが施設から脱走してまだ見つかってない」

実際のやりとり

──そう来たか。まったく予想していなかったトラブルである。

***
厚生労働省の介護事業状況報告(暫定)によると、令和4年1月末の時点で要支援・要介護認定を受けた人の数は689万7195人。10年前の平成24年1月の時点では525万404人。10年で130万人増加していることがわかる。

ちなみに令和4年1月末時点で要介護1、要介護2の人は259万2649人だ。
2022年9月終わり、Twitterのトレンドに「介護1と2の保険はずし」という言葉が躍った。介護保険見直し議論の中で「軽度」と呼ばれる要介護2以下の認定者について、介護保険が出ないのではと騒然としたのだ。結果としてはその議論は持ち越されたが、「軽度」とされる要介護1や2が、実際はどのような状況なのか注目も集まった。

ライターの長谷川あやさんは現在要介護2の母親と暮らしている。そしてある日、母親がデイサービスから脱走したという一報を受けたのだ――。
 

認知症でも体は健康

あわてて自宅に戻り、お世話になっているデイサービスに、何が起こったかを確認する。

ここで母のスペックをお伝えしよう。81歳、要介護2、認知症。10年近く前にがんの手術をしたが寛解している。ボケてはいるが体は健康だ(多分)。

昼食後の13時50分、母は何も持たずにいなくなってしまい、まだ見つかっていないという。もちろん心配ではあるが、私はどこか楽観視していた。健康とはいえ、老人の足である。そう遠くに行けるとは思えない。また、この日は、初夏を思わせるような心地よい快晴の日だった。低体温症に陥る心配もないだろう(帰りの電車でネットで軽く調べたところ、認知症による行方不明者で亡くなった状態で発見された人の死因は低体温症と溺死、交通事故が多いそうだ)。

5月5日の東京は25度前後で温かい晴れの日だった Photo by iStock

弟の伝言によれば、すでに警察には連絡を入れているそうだが、正式に全国に手配するには「行方不明者届」の届け出が必要で、18時までに見つからなければ、最寄りの警察署(便宜上、A警察署とする)で提出してほしいという。

デイには週2回、お世話になっているが、きっと自分がどこにいるかわからなくなり、自宅に戻ろうとしたんじゃないだろうか。Googleで調べたところ、自宅からデイまでの距離は850メートル。いつも車で送迎してもらっていて、歩いたことなんてない。母がひとりで戻って来られるはずないのだ。デイの周りを探してみようと思ったが、その前に、Twitterに投稿し拡散を呼びかけた。初めての経験なので先人のフォーマットを参考にさせていただく。

健脚だが、いつも車で送迎をしてもらっていた Photo by iStock