介護保険見直し議論の中で「軽度」と呼ばれる要介護2以下の認定者について、Twitterのトレンドに「介護1と2の保険はずし」という言葉が躍ったのは、2022年9月終わりのことだった。結果としてその議論は延期となったが、要介護1、2を「軽度」と呼ぶことと現実の差は介護に直面した人にしかわからない。

現在81歳で要介護2の認定を受けた母がいるライターの長谷川あやさんは、介護認定を受けたことでデイサービスにお世話になることができるようになった。

しかし今年の5月5日、デイサービスから脱走し、行方不明になってしまったのだ。
前編では、お昼に行方不明となった報告を受けたことからはじまり、できることをしていったことをお伝えした。ツイッターで情報収集を呼びかけるも、母親の行方はつかめない。18時に警察にも足を運んだ。あてもなく夜の街をさまようも、深夜に疲れ果て、半分諦める思いを抱きながら帰途についた……。

要介護2の人の症状がすべて同じかと言えば当然違うし、人によって認知症はことなる。しかし長谷川さんがここに綴ってくれたのは、長谷川さんの「要介護2の母」の現実だ。

2022年4月には住んでいるところからかなり離れた水戸警察署まで母親を迎えにいったこともあった 写真提供/長谷川あや
 

午前2時半ごろ電話が鳴った

0時前に自宅に戻る。ビールを嗜みつつ、うとうとしていた午前2時半頃、電話が鳴った。父が命が尽きようとしていることを知らせる病院からの電話もこんな時間でこんな音でかかっていたなと思いながら電話を取る。電話はいくつか区をまたいだB警察署からだった。「コンビニで深夜に何も持たずにうろうろしている老人がいる」と通報を受け、現在、B警察署で保護してくれているという。良かった。

コンビニの方が通報して下さったのだろうか。深夜に人目があることがありがたい(写真はイメージです。該当するコンビニではありません)Photo by iStock

「何時頃、ピックアップに来られますか」と問われ、すぐに出向くと伝えた。電話を切るやいなや、スマフォで自宅から、B警察署までの距離を検索したところ、最短距離で9キロとのことだった。デイがある場所からも8キロある。いなくなってから12時間以上、よく歩いたなと思う。だんだんと暗くなっていき、心細かったと思うが、母はすでにそんな気持ちも、自分がデイを抜け出したことも覚えていないだろう。

胸をなでおろすと、とたんにお金のことを考え始めた。タクシー代は、深夜料金で5,000円いかないくらいかな……。往復だとけっこう痛いな(笑)。「今こそ、タクシー配車アプリの割引クーポンを使う時!」と思い至ったのだが、すでに初回割引のクーポンは使用済だったり、使用している人から紹介クーポンを送ってもらわなければならなかったりで、すぐに(自分ひとりの力で)使えるものはなかった。正規料金で行くしかない。