2023.05.26
# 不動産

「100億円」の債券を勝手に購入した証券マンが絶望…「ルール違反」に怒った上司が言い渡した「衝撃」の一言

若き証券ディーラー「ぼく」の視点で語られる、証券会社の一つの日常「100億円のカードゲーム」を紹介する。

(この話は証券マンだった自身の体験談に基づいて作成されています)

(監修/町田哲也

100億の社債を買い取る

およそ四半世紀前、証券会社に就職したぼくが配属されたのは、債券のトレーディング本部だった。債券とは国や会社が資金調達の手段として発行するもので、5年や10年といった満期のあるところが株式と違う。保有している投資家と売買するのがトレーディングだ。

なかでも花形は、マーケットを予想しながら自分の裁量で売買をするディーラーだ。投資家の売り注文が割安だと思えば購入し、より高い価格での売却機会を見出す。自分でリスクを取るので、収益が大きい一方で思わぬ損失を負うこともある。

トレーディングは、カードゲームに似ている。ぼくがディーラーになったとき、ある先輩から聞いた言葉だ。マーケットは、ひと握りの著名投資家や証券会社のディーラーとの駆け引きで動いている。相手の動きを予測し、流れに乗るかどうかを瞬時に判断する醍醐味を例えての言葉だろう。

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そんな言葉を思い出させるできごとがあった。

マーケットで有名な大口投資家が、不動産会社の社債を売却してきたのだ。金額は100億円。数億円から数十億円規模の取引が多い社債市場においては、あまり見ない規模の取引だった。

この社債は不動産会社が発行する債券なので、不動産会社が倒産すれば紙くずになるリスクがある。にもかかわらず、ぼくの判断は「買い」だった。不動産会社の経営は堅実で、信用力に問題はない。何よりも魅力的なカードに見えた。

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