一方、性的少数者に対する配慮は、企業社会がコーポレートガバナンスやコンプライアンスの確立を求めるという環境変化のなか、2020年6月から大企業とすべての自治体で「パワハラ防止法」が施行(中小企業は22年4月から)された。
そこでは優越的地位などを利用し、身体的、精神的な攻撃はもちろん、私的なことに過度に立ち入ることを意味する「個の侵害」は許されない。そのなかには、「性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する」ことが含まれる。従って、パワハラ防止法にはパワハラ、セクハラに加えアウティングの遮断などLGBT理解増進法案にも通じるものがある。
ジャニーズ事務所への忖度とは何か
こうして性的環境が意識の上でも法的整備のうえでも変わるなか、進行していたのが19年に87歳で亡くなったジャニー喜多川の性的虐待に関する報道である。3月に英BBCが『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』(邦題)として、ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川による所属タレントへの性加害を放映した。
それを機に、元ジャニーズJrのカウアン・オカモトが被害を公表するなどして騒動は拡がり、5月14日に藤島ジュリー恵子社長が「被害を訴えられている方々に対して深くおわび申し上げます」と動画を通じて謝罪した。さらに21日には所属タレントの東山紀之が、メインキャスターを務めるニュース情報番組『サンデーLIVE!』で、「ジャニーズという名前を存続させるべきなのかを含め、外部の方とともに全てを新しくし、透明性をもってこの問題に取り組む」と宣言した。

ジャニー喜多川の性的虐待は、『週刊文春』など一部メディアの粘り強い報道や北公次など元所属タレントの暴露などによって、ある程度国民に認知されたものだった。また、04年に東京高裁がこの問題を報じた週刊文春の名誉毀損訴訟に関し、「重要部分においては真実」と認め、「報じるに値する公益性がある」という判決を下したことで「国家認定の事実」となった。
それが主要メディアで報じられなかったのは、視聴率や販売部数を左右するほどの影響力を持つジャニーズ事務所への忖度である。「ジャニーズ事務所の所属タレントに関するスキャンダルは扱わない」というのは、新聞、テレビ、出版社とジャニーズ事務所との黙契であり不文律。バーターでメディアには出演、インタビュー、グッズ販売などでの権益が与えられた。