2010.12.20

田原総一朗×竹中平蔵対談VOL.2「首相公選制で日本のリーダーを改革せよ」

なぜ小泉純一郎に改革ができて、菅直人にはできないのか

vol.1 はこちらをご覧ください。

田原 1990年には日本の国際競争力は世界で第1位だった。今それが27位にまで落ちちゃった。これなんですか、なぜ落ちちゃったんだろう?

竹中 やっぱり「保護」したからですよ。

田原 え?

竹中 保護したからです。

田原 何を保護したの?

竹中 例えば農業を保護しました。今はJALを保護してます。つまり弱いものを残しているからです。

田原 ゾンビをどんどん作っていると。

竹中 そういうことです。弱いものを残したら全体が弱くなります。

 よく日本とスウェーデンが比較されますが、スウェーデンは本当に厳しい国ですよ。自動車会社のサーブが潰れそうになって国に助けを求めたとき、スウェーデン政府は、そんな弱い企業を残しておいたら経済が弱くなると助けなかったんです。

 日本はJALを助けました。弱いものを残したら弱くなります。本当はやはり淘汰がある中で、新しいものに挑んでいかなければ、挑戦していかなきゃいけない。

田原 日本の国民性かもしれないけど、大企業に対してはいい気持ちを持っていないんですよ。特に共産党がそうだけど、大企業からもっと増税しろと言っているわけだ。大企業は国民の敵だという。これはどうも国民性もあるんじゃないかな。

 大前研一さんをはじめ多くの人が、生産者の論理から消費者の論理へと言っているわけね。生産者は悪いと。なんでこんなことが出てくるの?

竹中 私は、生産者が悪いとは日本では思っていないと思いますよ。例えば「経営の神様」っていう言葉はあって、「政治の神様」なんていう言葉はありません。「経営の神様」っていう言葉が日本人にはあるほど、経営とか企業そのものに対して決して悪い印象を持っていないと思うんです。

 ただマスコミの論調として、生産者と消費者、供給者と需要者、これはあるんです。マスコミは必ずそれを強者と弱者に置き換えるんです。

田原 ああ、そうか。

大衆に擦り寄る日本のジャーナリズム

竹中 そのすり替えが日本の悪いところです。

田原 企業が強者なんだ。

竹中 大企業と政府が強者なんです。中小企業と消費者、家計が弱者だという。そんなことありません。中小企業だって強い中小企業はいっぱいあるし、大企業だってJALや百貨店は弱者じゃないですか、大きいけど。そこはすごくすり替えが行われてますね。

田原 なんでマスコミはいつもでもそうやっているんだろう?

竹中 日本のマスコミはいろんな問題点を抱えていると思います。

 ハーバード大学にニーマン・ファンデーションという、たくさんのピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストを育てたところがあって、そこのトップと話したときに一番感じたことは、彼は「スピリッツ・オブ・ジャーナリズム」って言うんですね。

 「スピリッツ・オブ・ジャーナリズム」って何ですかって聞いたら、二つあるって言うんですね。一つは、権力から距離を置くこと。これは分かる。もう一つが重要なんです。大衆から距離を置くこと。大衆に媚びないこと。ところが日本はこの「スピリッツ・オブ・ジャーナリズム」がないんですよ。大衆に媚びるんです。

田原 そう。

竹中 考えてみると、田原さんみたいに自分の意志を貫くジャーナリストってものすごく少ないんですよ。大部分のジャーナリストは、申し訳ないけど株式会社朝日新聞のサラリーマンであり、株式会社なんとか新聞の社員なんですね。で、日本でその「スピリッツ・オブ・ジャーナリズム」を教えるようなメディアスクールってほとんどない。

 アメリカのアイビーリーグはどこもスクール・オブ・ジャーナリズムがあって、ジャーナリズム精神を叩き込むんですよ。権力から距離を置け、大衆からも距離を置けと。日本ではジャーナリズムは政府の審議会に入りたがる。つまり権力にすり寄る。そしてメディアは大衆にすり寄る。

田原 それは大衆にすり寄らないと売れないからですよ。テレビも視聴率が上がらないからです。

竹中 そこはやっぱり鶏と卵ですよ。国民はそんなにバカじゃないですから、すり寄っているジャーナリズムとすごく孤高を保っているジャーナリズムがあれば、時間はかかるかもしれないけども、国民は次第に後者の方にちゃんと耳を傾けると思いますよ。

田原 私が最近言っているのはね、私の中に「国民」としての田原がいるんですよ。で、「市民」としての田原もいるんですよ。どうも「国民」っていう田原はダメだと思う。「国民」っていう田原は怠け者でエゴイストで無責任なんですよ。

 自民党も民主党も本来ならば消費税を上げなくてはいけないに決まってるんですよ。ところが上げるって言えない。なぜか。それは国会議員が国民を相手にしているからなんですよ。国民は消費税を上げるのに反対ですよ。といって歳出を下げるのも反対ですね。だから自民党も民主党も歳出を下げるとも言えない。でも、歳入を上げるとも言えない。これは国民を相手にしてるから。

 「市民」ていうのはなにか。名古屋に河村たかしっていう市長がいますね。いい悪いはいろんな意見がありますが、頑張ってますね。彼はつまり歳費を下げようとしているわけ。そのために市会議員を半分にするとか、給料を下げるとか。もっとひどいことやったのは鹿児島の・・・。

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竹中 リコールされた市長さん。

田原 彼も市会議員とケンカしているんですよ。その竹原(信一・阿久根市)市長でびっくりしたことがある。新聞では失職した、失職した、大変だと書いている。市議会も開かない、マスコミも相手にしない、とんでもないと市長だと。ところが住民投票の結果を見てびっくりした。辞めろというのがおよそ7,500票、辞めるなというのが同じく7,100票。300票しか差がない。つまり意外に支持が多いんですよ。

 地方自治体は「市民」が割と責任を持つ。河村さんもあんなことやっても支持が多いんですよ。名古屋は赤字が多い。やっぱり支出を削減しなくちゃいけない。場合によっては地方税を上げなくてはいけない。「市民」はこれを主体的に考える責任を持つ。

 それに対して「国民」は主体性がまったくなくて、責任をまったく持たない。国会議員は「国民」を相手にしているからどうしようもない。「国民」の「市民」感覚をもっと目覚めさせようと、菅さんにも谷垣さんにも言うんだけど、そういうことは理解されない。

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