患者は着衣のまま、治療用のベッドに横たわる。片田医師は傷んだ腰に触れながら、指先の感覚で患部を素早く触知し、次に軽く押して関節のつなぎ目のズレを矯正し、治す。研ぎ澄ました集中力と熟練が必要とされる"手技療法"である。この日も1日で200人以上を予約なしで診察し、次々に治した。
私事で恐縮だが、団塊世代である筆者は重症の腰痛持ちだ。椎間板ヘルニアと10数年前に診断されたまま放置してきた腰全体に、取材当日は重苦しい疲れを覚えていた。
「治してみましょうか」との申し出に、私は治療ベッドに仰向けで寝た。腰に触れる医師の指先はやさしく撫でる感じに近かった。右、左と体の向きを変えながら、私が受けた治療は10分足らずで済んだ。
「どうですか、痛くないですか」「痛くは、ないです。楽になりました」

「もう大丈夫ですよ」。
治療後には腰の重い感じとしびれが嘘のように消え、< こうも違うものか・・・ >と思った。急所を強く押さえるというより、指先に知覚を集中させて関節が動く方向を探り当て、つなぎ目のズレ数mmを治してくれたらしい。
これを力任せにやると関節が動かず、また動かない方向へ無理に動かせば、患者が痛がって悲鳴をあげるという。
「神の手、ですね」
と驚き半分で言うと、片田医師はこともなげに言い切った。
「いや、神の手とか名人芸という世界ではありません。根拠に基づいた科学理論と共に、押す強さと方向、時間がポイントです」
医者も知らない最新治療
この治療法は、大阪府在住の整形外科医、博田節夫医師(日本AKA医学会理事長)が独自に開発し、治療理論と手技を確立したものである。1998年から導入された同医学会の指導医64人、認定医17人で合計81人。まだ数が少ないため、「医者も知らない最新治療」の一つだ。
47年生まれの片田医師は開業17年目。いち早く日常診療の中にAKA博田法を取り入れて腰痛を数多く治し、整形外科の世界で、大学病院の医師に伍して「神奈川に片田医師あり」と名を知られてきた。
「全国に患者90万人の椎間板ヘルニアは、100人中95人は自然に治るんです。そして、患者120万人と推定されている脊柱管狭窄症と両方合わせても、本当に手術が必要なのは1%足らず。腰痛全体では1000人に1人あるかどうかです」(片田院長)。