政府と東電の嘘を暴けるか。憲政史上初めて国会が挑む「民間人による原発事故調査委員会」の成否
明治以来の国会のあり方を変える可能性を秘めた「委員会」が動き出す。
東京電力福島第一原子力発電所の事故について、既に設置されている政府の事故調査・検証委員会とはまったく別に、国会に新しいタイプの調査委員会を設置するもので、法案が9月末に全会一致で可決・成立した。
国会の委員会といえば、委員は国会議員。野党委員は政府側と対峙して罵詈雑言を浴びせ、大臣は言質を取られないようにノラリクラリというのがお決まりのパターンだった。専門性の乏しい議員が、霞が関という頭脳集団に支えられた大臣に徒手空拳で挑むのだから、質疑が空疎になるのは当然だった。

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ところが、今度設置される委員会の委員はすべて民間人。衆参両院の議員からなる協議会で人選した後は、基本的に議員は口出しをしない。徹底した独立性・中立性を保つ一方で、国会が持つ国政調査権並みの強い権限を行使して調査に当たり、衆参両院議長に報告書を提出することになっている。もちろん、事故対応の当事者だった菅直人前首相や細野豪志・原発事故担当相、清水正孝・前東京電力社長といった関係者から直接事情聴取を行うことができる。
国会には国勢調査権が認められているが、実際には調査を担当する職員など手足がなく、国会議員が自力で調べる他、なす術がなかった。国会質問で新聞や週刊誌の記事をベースに質問する議員がしばしば見受けられるのは、調査力のなさの証明でもあった。
官僚がコントロールしていた政府委員会
その国会自体が民間専門家による委員会を持つ初のケースとなるわけだ。公聴会や専門家の委員会を持つ米国の議会に一歩近づくと言ってもいい。この委員会が成功すれば、国会の役割自体が大きく変わる可能性がある、というのはこのためだ。
国会で事故調査委員会を独自に設立する案が浮上したのは今年5月のこと。自民党の塩崎恭久元官房長官や国民新党の下地幹郎幹事長らが米国を視察訪問した際、米政府関係者から独立した委員会の必要性を聞かされたことなどがきっかけだった、という。この経緯は過去にこのコラムでも触れた。
帰国後、塩崎議員らが中心となって議員立法を準備、民主党内にも賛成の声が広がったが、その後、紆余曲折があった。事故調が既にあることを理由に政府が難色を示したことなどが理由だ。結果、9回にわたる与野党の実務者協議を行ない、会期末になてようやく、民主党の松野頼久国会対策副委員長らの尽力で法案が通過した。
6ヵ月ごしでの法案成立に、塩崎議員は語る。
「まさに感無量。国会が独立の調査機関を設け、個別の事務局を置き、中立公正の立場から民間の当事者、行政関係者から閣僚に至るまで検証することは、これまでの憲政史上に例がない。日本ではこれまで、様々な不祥事調査、事故調査は基本的に政府が行って来たが、今回の原発事故は政府も当事者。その政府が作った委員会の調査では国際社会が納得しない」

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実際、政府の調査・検証委員会は、政府からの独立性が疑われかねないという。政府の委員会の事務局員は総員41人だが、8人の学者が事務局専門家として非常勤で加わっているだけで、残りの33人は官僚。出身省庁は表(*)の通りだ。ほぼ全省庁にまたがり、経済産業省からもいる。当事者である霞が関が事務局を完全にコントロールしているのだ。
首相官邸には各省庁から人員を出しているが、彼らが半ば各省庁の権益を守るために情報収集したり、行動したりするのは良く知られたところだ。政府の調査・検証委員会の布陣も同様に機能するだろうことは火を見るより明らかだ、というのだ。「行政府の対応における過ちなどを、独立性を持って調査できるのは立法府である国会しかない」(塩崎氏)という。