2011.10.22

田原総一朗×浅川芳裕×福島の農業経営者「教育テレビを24時間つかってでも放射能問題の情報を消費者、農家、流通業者で共有する仕組みを作ろう」

『現代ビジネス@福島』キックオフ座談会VOL.3

浅川: もう「風評」という言葉を禁止したほうがいいかもしれませんね。「風評」と表現すると「風評」の解釈問題になるので、それよりも被害の度合いは何かを中心に考えるべきでしょうね。お客さんにとっての害、農家の方にとっての害、地元住民にとっての害、それらの害を、誰が誰に対して与えているのか、ということを整理整頓して考えたほうがいいでしょうね。

田原: 問題なのは、たとえば今汚染されている濃度が500Bqだとして、福島原発の事故が起きて上がった分がどれだけかということ。

たとえばよく言われているのは、日本の場合は1963年時点の放射線の濃度は今より遙かに高かったということで、ソ連や中国の核実験があったからそのくらい高かった。それとか、現在の日本よりもシンガポールのほうが濃度が高いとか、いろいろ言われていますね。

浅川: 結局、過去のことはもう終わったことなので、よく「昔はもっと高かったじゃないか」というようなことを言う人がいますが、人間は現在に生きているので、そのロジックにはあまり意味がないと思います。

 それと、暫定規制値の「暫定」の意味なんです。あくまで一時的なものなので、そこから今後どう下げていくかが重要です。チェルノブイリの例で言うと、旧ソ連の三カ国、ロシアとベラルーシとウクライナ、それとヨーロッパの暫定規制値がどういう推移になったかというと、当初は2000Bqくらいで高かったのですが、今は野菜ですと40Bqくらいになっていますね。

 それが一つの先行事例になっています。他の国はこうしているんだから日本も同じようにしていかなければならないじゃないか、という話になっているわけです。日本の場合は「暫定」が「絶対」になっている部分があります。「500Bq以下ならOKだけど、それ以上だとダメ」という形になっていて、それも不信感をあおっています。暫定規制値を出すのであれば、「将来的にはこういうふうに下げていきますよ」という方針がセットになるべきでしょうね。

 今の基準は厚労省が出していて、厚労省は食品が対象だから農産物自体は農水省の管轄なんですね。今は厚労省の基準に農水省が従っていて、農水省が出荷自粛の要請を出しているわけです。それも実は法律による強制ではなくて、協力してくださいという「お願い」なんです。

 その要請出すのは対策本部で、対策本部から県知事に指示をする。その部分では「指示」なのですが、県知事から農家の方に降りてくる段階で「お願い」になります。本来はきちんと要請して、その要請に従ったら損害を補填しますよ、というふうにするべきなんです。

田原: そうか、法的に強制するとお金がかかるから「お願い」にしているんだ。

浅川: その「お願い」というのはあいまいなんです。その補償は東電がしろということになって、ぐるぐる回っていて、いつお金が入ってくるのかわからないというような、お金のかからない方法を政府はとっているわけです。

事実の公表が最良の道

田原: それでは、他に質問はありますか。

質問者: 日本と外国では緊急避難の数値や範囲が違うことで、詳しい情報がわからないので不安を覚えています。本来ならば郡山辺りでも避難しなければならないのか、その辺をハッキリさせてほしいと思います。それと、農地や市街地の除染が遅れているというお話がありましたが、これはいつまでやらなければならないのでしょうか。

田原: 浅川さん、市街地の除染はどうなっているんですか。

浅川: 市街地の場合は、ホットスポットのような高濃度のところを高圧洗浄とかいろいろやっていますね。東大の先生が提案しているのは、個々の方々が計測して高かったとか低かったとかやっているといつまでも終わらないので、先ほどアメリカが300m上空から計測したという話をしましたが、それをもっと精密にやることができるということです。

 たとえば農薬の空中散布をするヤマハの無人ヘリなんかがありますよね、それに計測器を乗せて5~10m上空から全部計測するというようなやり方をするのがいちばん早いんじゃないですかね。家庭ではそれぞれ個別に計測しておられると思いますし、ベラルーシなんかでは最後は住居別に計測していましたが、個別にやるとすごくお金がかかります。

 ですから、先ほど触れたアメリカの上空からの計測と、実際に土壌を計測した場合の数値がほとんど変わらなかったわけですから、それをもっと高度を低くして這うように計測すればいいのではないか、と提案した東大の先生がいらっしゃいます。

田原: アメリカが300m上空から正確に計測できるなら、なんで日本は同じことをしていないんですか。日本でも、無人ヘリに乗せて測ってしまえばいいじゃないですか。

浅川: それはわかりません。田原さんに聞いてほしいくらいです。土壌検査の情報の出し方も、3月に測った結果を4月に出し、4月に計測した結果を5月に出すというような、何とも気持ちの悪い、何となく「測っていますよ」というのをじわじわ出しています。あれを誰が決めているんでしょうね。

田原: 僕は素人だからわからないのだけれど、たとえば3月に福島原発の1号機の建屋で水素爆発が起きたという発表があった。これを発表したのは枝野さんだけど、僕は何人かに建屋の気圧が上昇しているという話を聞いていたから枝野さんに電話して、「建屋の気圧が通常より上がっているということは、核燃料や格納容器に異常があるんじゃないのか。なぜそれを言わないのか」と聞いたんです。そうしたら、枝野氏は「それはあくまで推測です。政府は推測を発表すると国民の危機感をあおるので、推測は一切公表しません」というふうに言ったんです。

浅川: 「推測」というのは人間の知性の表れですね。近い未来に対してできる限りの予測をするというのが知性の働きですから、それをしないのでは知性がないということになりますね。

田原: 問題なのは、政府はそういう事情があるとしても、マスコミは推測をしたっていいはずなんですよ。ところが、一週間ほどの間はどこもそういう推測の記事を出さなかった。まるで大本営発表だった。その後、浄水場の水から高い線量が出たことがありましたが、その後にメルトダウンが起きた、と。この辺から今度はマスコミが一斉に「叩き屋」になるんですよ。「放射能が危ない、放射能が危ない」と連呼して叩いている。

浅川: 緻密な事実が明らかになると、ある意味でスッキリしますよね。それを出さないのはパニックを怖れているということなのでしょうが、それはつまり政府に知性がないばかりではなく、国民の知性をも侮辱しているということでしょうね。本当のことを知ってしまったら大変なことになる、と考えているのでしょうが、そんなことはないはずですね。本当のことを知れば、それに対して人間は順応しようとします。

田原: 「本当のことがわからなかったから公表しなかった」というのが政府の言い分ですね。

浅川: それでも、その時点でわかっていることを言ってくれていたら、たとえば農業に関していえば餌をちゃんと屋内に入れておくとか、やりようはあったと思います。

田原: もっと前に「20km圏内は汚染の危険がある」と言えたはずですよね。それを当初3kmとかインチキをやった。

浅川: アメリカの場合は50マイル、80kmと決まっていますね。あれは事故が起きてから決めたわけではなくて、最初から決まっているんですね。まあ、必ずしも距離に比例して汚染されるわけではないですが、だいたい80km圏内に高濃度の汚染地域が集まっているわけですね。アメリカの場合は核実験や原発事故の経験がありますから、いろいろノウハウがあるわけですね。

田原: なんでアメリカは当初80kmだったのを50kmに下げたんですか。

浅川: アメリカの元々の原発事故時の対応では、広めから採って狭めていくという形式なんです。あとは風による飛散の状況とかですね。アメリカではまず、ラジオで地域ごとに「原発の事故が起こった場合には、この周波数に合わせてください」というのが決まっているんですね。それと、日本では地震が来るとショートメールが送られてきますが、あのような形で警報が来るような仕組みになっています。

 ですから、日本でも今のうちに事故時のシミュレーションをして避難のシステムを作るべきなんですね。次に同じことが起こったときに同じ間違いをすることほど愚かなことはないわけですから。そういうふうに、政府が今回の事故を顧みて、その反省に基づいてこういうことを考えたということを公表することが、一つの信頼回復につながるだろうと思います。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら

関連記事