
ご都合主義にもほどがある
3月28日に開かれた内閣府「食品安全委員会」で、厚労省が3月17日に決めたばかりの「被曝食品」の暫定規制値を見直すかどうかの話し合いが行われた。
現在、この暫定規制値を超えたとして、福島、茨城、栃木、群馬の4県で、ほうれん草やキャベツ、ブロッコリー、原乳などに出荷制限や摂取制限が出ている(3月31日時点)。たとえ、一部の地域でも規制値を超えれば、全県でその品目については出荷制限がかかるため、農家の怒りが爆発。さらにこの4県では野菜全体が売れなくなる「風評被害」についての悲鳴もあがり、それに押される形で放射性物質セシウム137の規制値を緩和するかどうかが焦点となった。
この日の委員会に専門参考人として呼ばれた長野県松本市の菅谷昭市長は、委員会の姿勢について、厳しい口調で次のように指摘したという。
「チェルノブイリの原発事故で子供の甲状腺がんの発症率は5年で約130倍になった。放射能の問題は、『いま』の問題であるだけでなく、10年、20年にわたってついて回る問題なんです。日本のガイドラインがその場しのぎで変わるなんていうご都合主義は許されない。海外の国々がWHO(世界保健機関)より厳しい規制値を採用しているのは、チェルノブイリを経験したからだ。『福島』もいまや『フクシマ』として世界に知られるようになってしまった。こんなことでは世界で日本の食品なんていらないと拒否されるのは当たり前ではないでしょうか」
菅谷市長は医師で、チェルノブイリの子供たちへの医療行為を20年余りにわたり続けてきた。その市長の意見に押されたか、最終的にセシウム137の規制値緩和は見送られた。
このように、いまの「被曝食品」調査は規制値一つとっても泥縄式で、厚労省が調査を各自治体に丸投げしたから、調べる野菜などの種類や件数はまちまちだし、出荷制限の判断基準も不透明。おまけに出荷制限をしながら、政府が「1年間食べ続けても、ただちに人体には影響のないレベル」などと説明するから、生産者の農家も、消費者も混乱するばかりなのだ。