2012.01.10
# 雑誌

あなたの会社は大丈夫?
10年後も絶対に生き残っている会社
2012年版【前篇】

 欧米の失墜、先進国の超格差社会化など、10年で環境は激変する。生き残る企業はどこなのか。今回は「自動車」「電気機器」「商社」「陸・海運」「銀行・証券」などから計311社の結果を発表する。

A:石井淳蔵氏B:植木靖男氏C:楠木建氏 D:鈴木貴博氏E:田中秀臣氏 F:中野晴啓氏 G:保田隆明氏H:真壁昭夫氏I:安田育生氏 ※有力企業627社の中から「10年後に絶対に生き残っている会社」「努力すれば生き残っている会社」を識者に選んでもらい、それぞれに◎、○をつけてもらった。表中の「点数」は◎を2点、○を1点として計算した合計値

昨日の勝者は明日の敗者

 一つの、長く続いた、キラキラと輝いた時代がもうすぐ終わりを迎える。

 2011年に立て続けに起こった米国債の格下げ、欧州の国債危機が象徴するのは、戦後約60年間、米欧中心に回ってきた世界経済システムの終焉にほかならない。これから10年の間にユーロが事実上崩壊し、米国の衰退が明らかになる中、代わって世界の中心に立つのは間違いなく中国だ。

 信州大学経済学部教授の真壁昭夫氏が言う。

「中国では現在の貧困層が富を貯え、人口13億人の約9割にあたる11億人ほどの中間層が誕生、歴史上最も巨大な経済大国が誕生するだろう。さらにインド、ブラジル、オーストラリアなどが中国に次ぐ中心的な国家となり、続くようにインドネシア、ベトナム、南アフリカなどの国々が急成長をとげ、新・新興国、巨大消費圏として台頭する。

 一方で米欧そして日本といった"かつての先進国"は、テレビ、パソコン、家電、車といった主要産業で軒並み雇用が失われる上、クラウドコンピューティングなどのIT化が急速に進展する中で中間管理職のポストがなくなり、企業が『1割の経営者と9割のワーカー』という組織に変化する。おのずと現在の比ではないほどの超格差社会が訪れることになるだろう」

 過去20年にわたって日本経済は停滞の底を泳ぎ続け、どんなに財政政策や金融政策を打っても効かない"麻薬中毒患者"に成り果てた。米欧も政府がカネをジャブジャブ投入することでなんとか経済成長の体を装ってきたが、それもすでに限界。2012年は"かつての先進国"が「国家の信用(=国債)」を市場から見限られるエポックメイキングの年として経済史に記録されることになる。

 証券アナリストの植木靖男氏が指摘する。

「さらに日本の場合、これから10年の間に財政破綻が起こる可能性が高い。そうなればモノの価格が急激に上昇するハイパーインフレが日本経済を襲撃、大パニックに陥る。その後に起こるのは、過去の例からも明らかなように、格差の拡大だ。資産や資本を持つ大企業、個人がますます栄える一方で、大多数の企業や個人が相次いで倒産・破産することになる。

 ただ財政破綻という大変動がなくても、日本はもう高成長は期待できない。東証一部に上場する約1700社のうち、統合や合併による再編も含めて、上場企業は半数くらいに減っているだろう」

 10年経てば、企業の風景はガラリと変わる。

 事実、約10年前に日本エアシステムとの経営統合を発表した日本航空は、「絶対に潰れない会社」と言われながら経営破綻。また10年ほど前に白物家電でシャープと包括提携を発表した三洋電機は、'11年に入ってその白物家電事業を中国の家電大手ハイアールに売却することを決めた・・・。

 ピナクル代表の安田育生氏は「これからはもっと変化の激しい時代になる」と語る。

「IT分野でいえば、つい最近まで『PC対携帯』だったのが、スマートフォンの登場で闘いの構図が一変した。また一般書店を苦境に追いやった大手ネット書籍通販会社アマゾンが躍進したのもつかの間、電子書籍の登場で家電などへ販売アイテムを拡大させることになり、いまや楽天との闘いという図式になっている。まさに昨日の勝者は明日の敗者になりかねない。

 私は『じり貧ジャパン』と呼んでいるが、このまま手を拱いていては『老大国イギリス』と同じ路を歩みかねないだろう。BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)が猛スピードで成長する中で、日本企業の優位性などは失われていく。スピード化の中、一つ舵取りを誤れば、10年後は日本の大企業といえども存在の保証はない」

 ではどういった企業が生き残れるのか。

 本誌は経済を熟知したプロフェッショナルに有力企業627社の中から「10年後に絶対に生き残っている会社」「努力すれば生き残っている会社」を選んでもらい、それぞれに◎、○をつけてもらった。その中から「自動車」「電気機器」「銀行」「商社」「住宅」など311社の結果をまとめたのが63ページからの表だ。

 トップは三菱商事とユニ・チャーム。これに資生堂、セブン-イレブン・ジャパン、日本電産、キリンHDなどが続く。業界もカラーも違う企業が並ぶが、実は共通点がある。

 百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏が語る。

「今後10年で生き残りのキーワードになるのは、『グローバル』と『M&A』。世界の需要動向がめまぐるしく変化する中で、どの事業を会社に残してどれを捨てるか、どんどん取捨選択していかなければ生きていけない。この能力で抜きん出ているのが日本電産であり、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事に代表される総合商社だ。M&A案件の"成功打率"は3割もいけば大成功だが、ともにこれを実現している。世界各国で求められる事業がなにかをみつける目利き力、その事業を成功に導く人材も豊富に揃えているから強い。

 同時にこれからは積極的に海外に進出し、需要を掘り起こす"自力"も求められる。その点で、インドネシアでもともとなかった紙おむつ市場をゼロから作り上げたユニ・チャームは、世界のどこでも戦える随一の企業になるだろう」

 同じ理由で、中国内陸部に進出したセブン-イレブン、ブラジルなどで積極的なM&Aを仕掛けているキリンHDも高評価となったわけだ。

 一方で日本を代表する自動車、電機メーカーは上位に入っていない。同じく海外に進出しているのに「○」がつかないのはなぜか。

 一橋大学大学院教授の楠木建氏が指摘する。

「1兆円の商売をして100万円儲けるより、100万円の商売をして50万円儲ける企業のほうが価値がある。日本企業はボリューム(規模)を求めがちだが、その結末は過当競争に陥るだけ。小さくてもどれだけ独自の価値を作り出せるかが、生き残りのカギになる。

 そうした意味で評価できるのがロボット一筋で頑張っているファナック、ジリ貧の写真フィルム事業から化粧品・ディスプレイ事業などにうまく転換を図った富士フイルムHDなどだ。規模だけを追い求めて、あれもこれも手を出して失敗する大企業には厳しい時代となるだろう」

 かつては大きなシェアを握ることでコスト安などのメリットを享受し競争を勝ち抜くことができたが、これからは違う。大切なのは一貫した独自戦略を貫ける企業かどうかだ。
さらに、流通科学大学学長の石井淳蔵氏は「モノを売るだけの企業は生き残れない」と喝破する。

「日本はモノ作りで勝負できる国ではない。これからはモノからサービスへの時代だ。たとえばブリヂストンはタイヤにセンサーを付けて、タイヤの減り具合を測るサービスを実施、『減り具合が早いので、運転方法をこう変えたほうがいい』などとアドバイス・メンテナンスする事業を伸ばしている。キヤノンや富士ゼロックス、リコーもコピー機を単体で売るだけでなく、トナー、インクなどのメンテナンスで儲けている。

 一方で『当社はテレビメーカーです』などという縛りの中でやっている企業に将来はない。かつて米IBMはコンピューターを売ることから、コンピューターのコンサル業に業態転換して成長を維持できた。10年後はモノを売っても儲からない時代だということに気づかなければ、日本企業に未来はない」

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