『週現熱闘スタジアム』第2回
東大合格者数30年連続1位
開成中学高校を語ろう

開成と60年をともにした生き証人、元名物漢文教師の橋本弘正氏と、昭和63年卒の衆院議員、井上信治氏が開成への思いと実情を語り尽くす。
上には上がいることを知る
井上 僕が開成に入って面食らったのは、まるで勉強しているように見えないのに、成績がいい同級生がたくさんいたことですね。
橋本 各小学校で「神童」と言われてきた子どもたちが集まる学校ですから、入学してまず知るわけです。上には上がいると。私もそうでした。
井上 それで入学早々に成績で勝負するのは諦めて、勉強しなくなる人間がけっこういる。僕もそのクチで、成績は最悪でした。
橋本 でも開成は座標軸の多い学校で、勉強ができなくても、別のことに秀でていれば、それなりの尊敬を集めることができる。
井上 それでも学内のヒエラルキーは、最終的には頭の良さで決まるところがある。特に、遊びほうけているのに成績トップ。一体あいつ、いつ勉強しているんだろう・・・・・・というのがいちばん尊敬される。みんなが「開成にバカはいないのだから、勉強して成績がいいのは当たり前」と思っているからです。そういう、ちょっとヒネくれたカルチャーがありますね。
橋本 そう、勉強している姿を見せない。
井上 ただ高3になって大学受験が近づいてくるとそういうわけにもいかない。勉強してるかどうかは関係なく、とにかく成績が悪いとバカにされる状況になるわけです。
だから僕も1年間必死に勉強して、東大に入ることができた。でも開成では「東大に入るのは当たり前」なので、格別な達成感というのはなかった。
橋本 1学年400人のなかで、だいたい180人が東大に行く。半分近くが入る計算です。だから、開成では、平均よりだいぶ下の成績の生徒でも、とりあえず東大を受けます。
一般的にはいちばん優秀な人は東大の理Ⅲ(多くは医学部に進む)に行くと思われていますけど、私は教師として30年以上開成を見てきて、本当に優秀な生徒は理Ⅲじゃなくて、工学部や理学部に進む理Ⅰに進学するような気がする。もちろん理Ⅰには毎年1100人も入れるわけですから、上と下はありますが、上の方は図抜けている。
例えば、センター試験の数学などは、すべて暗算で解けてしまう子がいます。途中式も計算も一切書かないので、問題用紙は真っ白なんです。だから制限時間60分のところを開始10分ほどで解答と見直しを終え、暇になって寝てしまう。この話を生徒から聞いたときは、私も驚きました。
井上 天才的なヤツというのは確かにいますね。
橋本 開成OBで言えば、おそらく前校長でもある芳野俊彦さんなどがそうでしょう。光ファイバーの世界的権威で、ノーベル賞受賞の噂もあった。同じくOBで現校長の柳沢幸雄さんはあのシックハウス症候群を発見した方です。
医学っていうのは具体的なんです。つまり彼らにとっての対象はあくまで人間と決まっている。ところが理Ⅰは、宇宙とか、ロボットとかで、大変な想像力が必要となる。
たとえば、開成時代学年で成績トップだった鄭雄一さんは、理Ⅲに入りましたが、医学部を卒業した後、いまは東京大学大学院の工学系研究科で教授をやっている。