2012.04.26

[プロ野球]
森繁和×二宮清純<前編>「今だから話せるオレ竜の真実」

『参謀』『天才たちのプロ野球』出版記念スペシャル対談
スポーツコミュニケーションズ

情報漏洩を防げ!

二宮: そして川崎先発の何よりの効果は、他チームに「中日は何をやってくるか分からない」という意識を植え付けたこと。決して落合さんは奇襲を多用するタイプではなかったのですが、勝手に対戦相手が警戒してくれた面もあるのではないでしょうか。
: 采配は本当にオーソドックスでしたよ。監督がどこまで意図していたかは分かりませんけど、「まさか開幕にやるか」と周囲は感じたでしょうね。監督は1年目に「戦力を10%底上げして優勝する」と宣言していました。これも僕らのなかでも半信半疑でしたから。僕自身、「本当に間違いじゃないですよね?」と何度も聞いたくらいです。でも監督は「優勝を狙っているよ。できるよ」としか言わない。それがハッタリだったのかは何とも言えません。ただ、最終的には本当にリーグ優勝しましたから、スゴイなと感じましたよ。

二宮: 落合中日の強さの秘密のひとつに、情報管理の徹底が挙げられていました。情報漏れを防いでいたからこそ、川崎先発という奇策も実現できた。プロ野球の世界ではケガ人の情報などを自ら発表してしまうチームがありますが、個人的には首をかしげてしまいます。マイナスの情報が出れば、相手を利することにつながるはずなのに……。
: 僕たちがコーチになって、一番に言われたことが「情報を外に出すな」でした。「情報を漏らした時点で一緒にはやれない」と。おそらく監督はロッテ、中日、巨人、日本ハムと渡り歩いて、チームが悪くなる時の共通項が見えていたと思うんです。勝てない時は、必ず内部でゴタゴタがある。それが外に漏れると、余計に騒ぎが大きくなる。特にOBゆえに、中日の悪い部分も知っていたんでしょう。だから、「情報漏れだけはやってはいけない」という信念があったように感じます。

二宮: それまでの中日には、引退したら地元メディアで解説をやり、いずれはコーチ、監督になるという流れがありました。ところが落合さんはOBを極力、排除するコーチ人事を行った。これは一種の革命でしたね。
: はい。監督と僕しか知らないような重要な話が、球団代表、オーナーと伝わる間に、もう情報が漏れている(苦笑)。そうやって周囲からチームが崩されていくのを監督は一番恐れたのだと思います。それだったらOBや球団とつながりのある人間を入れるのはやめようとなりますよ。実は、僕が監督から指示された最初の仕事が情報漏洩の“犯人”探しだったんです。

二宮: ピッチャー担当のみならず、そんなミッションもあったんですね。
: テレビから新聞から、情報が漏れたところの記者をつかまえて、「どこから聞いた?」と徹底的に聞き出しました。もちろん、記者連中も取材源はしゃべりませんけど、とことん出所を突きとめていったんです。そうすると、コーチがつながりのあるメディアに漏らしていたり、トレーナーなどのスタッフが流していることが分かった。1年目が終わった時点で、情報漏洩の確信がとれた人たちはみんな辞めてもらいました。

『天才たちのプロ野球』
著者:二宮清純
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二宮: 最終的には先発ピッチャーについて、落合さんにすら事前に伝えなかったとか。
: 先発を誰にするか、監督と僕しか知らないなら、本当は分かりようがないんです。ところが、それでも漏れる。だから、監督が「もうシゲの考えでいい。オレにも言うな」って(苦笑)。

二宮: メディアは何としても情報を得ようと、いろいろな手段を使ってきます。対応は大変だったのでは?
: いくら聞かれても大事なことはしゃべらない。それだけの話です。その場しのぎでウソをつくと、かえって面倒になる。たとえば誰かがケガをして2カ月かかるのに、「1週間」と言ってしまったら、メディアには「森の言っていることは全部ウソ」と思われます。そのほうがメディアも追っかけてくる。重要事項はしゃべらないというスタンスを貫けば、向こうもしつこく聞いてこなくなりますから。

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