2012.05.16

磯田道史 第2回 「自由競争にからきし弱い日本人には、目標となる坂の上の白い雲が必要だ」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ 当時の中国はどうだったんですか。

磯田 近代化に遅れを取ったのは、たとえば鉄道を敷いたら、祟りが起こると撤去させたんです。イギリス人より自分たちのほうが教養が豊かだとヘンな自信とプライドを持ちすぎたのでしょう。その点日本は、外国は自分たちより強い存在だ。わたしたちも強くなろうと必死になったのです。富国強兵はそんなところから自然に出てきたのです。

シマジ 中国は眠れる獅子と言われていましたが、結果は眠れる豚だったんでしょう。でも中国はあなどれません。中国は火薬も印刷術もウイスキーも最初に発明した国ですからね。

磯田 その通りですね。中国から入れた漢字がなくてひらがなだけだったら、いまの日本の一冊の本は2冊分になっていたでしょう。漢字という意味を圧縮した文字の発明はすごいものがありますね。

シマジ 日本人はむかしから外国のものを受け入れてきましたね。

磯田 信長のころはスペイン、ポルトガルから、江戸時代は鎖国といいながらもオランダから文化を仕入れていました。また、江戸時代から日本人の識字率は抜群だったのです。もう一つ言えば、攘夷という思想が植民地化を防いだのです。

 たとえば生麦事件が起こりましたね。イギリス軍にとって島津久光の首をはねるか、生け捕りにするかなんて簡単なことだったのですが、それが出来なかったのは攘夷思想です。イギリス人はもしそんなことをやったら、全国的にイギリス人虐殺テロが起こると判断して、幕府に賠償金だけの交渉に持っていったんでしょう。家臣が命がけで君主を守りまた仇討ちは、封建制度の時代では当たり前でしたからね。

シマジ さすがは英国人の判断力は現実的ですね。郷に入っては郷に従えですか。

磯田 日本の武士たちのテロが起こり、日本に在住するイギリス人が皆殺しにあったら、彼らだってイギリス議会でどう説明したらいいかわからなかったのです。

シマジ たしかにいまの日本人は温和しそうにみえますが、遺伝子に組み込まれている隠されたファナティックな性質は、怒らせたらどう出るかわからない狂気が潜んでいると、アメリカのワシントンあたりは考えているらしいですよ。だから絶対に日本には原子爆弾は持たせないでしょう。いつまで経っても日本はアメリカの属国で3流国なんでしょうね。

磯田 江戸時代の賢人たちは草葉の陰で泣いていることでしょう。