2012.06.29

二宮清純レポート
三浦大輔 38歳・横浜DeNAベイスターズ
男はいかにして「成りあがる」べきか

週刊現代 プロフィール

 ドラフト外入団ながら沢村賞投手にまでなった西本聖(現千葉ロッテ投手コーチ)は巨人に入ってすぐのキャンプで足を高々と上げた。まるで〝伝説の大投手〟沢村栄治ばりのフォームは、すぐさま評判になった。

 西本がつま先をピーンと伸ばす独特の投法を披露したのは、ドラフト1位ルーキー定岡正二への対抗心からだった。

「コーチの目を僕の方に引き寄せたかった」

 西本はそう語ったものだ。

 プロに入ってからも三浦のストレートは140km/hそこそこ。バッタバッタと三振が取れる変化球があるわけでもない。生き馬の目を抜く競争社会で自分はどう生きていけばいいのか・・・・・・。

 目の前の霧が晴れたのは、当時の投手コーチ・小谷正勝の次の一言だった。

「己を知りなさい」

 振り返って三浦は語る。

「プロに入ったばかりの頃はピンチになればなるほど、力んでいました。〝よっしゃ、抑えたる!〟と。しかし、結果はついてこない。

 そんな時、小谷さんから〝己を知りなさい〟と言われたんです。オマエはどんなピッチャーなんだ。低めに丁寧に投げることで抑えてきたんだろう? ピンチになったからといって自分ができないことをやろうとするな。失敗するぞ〟と。今でも小谷さんの教えは僕の財産になっています」

 投手コーチとして3球団で指導した小谷は、名伯楽との評価が定着している。奈良からやってきた少年に、小谷は何を教えたかったのか。

「プロに入る連中はアマチュア時代、皆、〝オレがオレが〟でやってきたんです。でも、この世界は上には上がいる。自分がここで生きていくためには何が必要か。そこに早く気づいた者のみが生きていけるんです」

 三浦が頭角を現したのはプロ入り2年目の'93年だ。15試合に登板して3勝(3敗)をあげた。翌'94年は2勝(2敗)。一本立ちしたのは'95年だ。8勝(8敗)をあげ、ローテーション投手の仲間入りを果たした。独特の2段モーションがバッターを幻惑した。この投法の完成にも小谷は一役買っている。

「プロに入った頃の三浦は上体に力が入り、首が反り返るような投げ方をしていた。これが原因でよく首を痛めていました。そこで本人が新しいフォームに挑戦したいという。それが2段モーションでした。

 このフォームは足でリズムを取るため、ムダな力が抜け、首が反り返らない。それからですね、三浦が劇的に良くなったのは・・・・・・。

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