もう一つが「サークルオリエンテーション(サークルオリ)」。3000人余りの新入生が駒場キャンパスに総結集し、目当てのサークルをみつける行事だ。
長崎県の無名校から農学部に入った卒業生(28歳)が、クラオリの集合場所に行くと、40人ほどのクラスメートの中に、人だまりができていた。麻布、筑駒、ラ・サールという超一流の高校出身者ばかりが、すでに集団を作っていたのだ。
彼らは、塾が一緒だったり、予備校の模試で上位者だったりするため、高校時代から互いの顔か名前を知っている。そのため、すぐに仲良くなっていた。
「僕が出身校を言っても『初めて聞いた』『それどこ』と言われるだけで、中に入っていけませんでした。僕と彼らの共通点は、東大生であることだけだから、話題も広がらない。東大の友達をたくさん作ろうと思ってきたけど、初めから相手にされないのはきつかった」
サークルオリでも、"超一流校集団"は先輩のツテを辿って、インカレサークルに勧誘されていった。彼は田舎っぽさの抜けない風貌からか、華やかなテニスサークルやイベントサークルからまったく声がかからない。意を決して少し地味目なテニスサークルを訪ねると、「セレクション」なるものを受けさせられた。
入部希望者が募集人数より多い場合、先輩たちが面接して部員を選抜するシステムだ。「合格なら電話します」と言われたが連絡はなかった。後からその場で合格をもらっていた人もいたと聞いた時、自分は最初からダメだったのだと気づいた。
教育情報通信社「大学通信」の安田賢治取締役はこう指摘する。
「入学時点で知り合いがいる関東組、有名校組と違って、地方出身者・無名校出身者は知人がいません。そのまま友達ができずに孤立する傾向が強い。東大合格者の約半数が、関東の高校出身。東京だけで900人近く受かりますが、一方で岩手、福島、滋賀、鳥取、佐賀などの学生は20人にも満たないのですから」
ある現役東大生は、こうした地方無名校出身者を「車輪組」と呼ぶと話す。地方の神童がエリート学校で押しつぶされてしまうヘルマン・ヘッセの著作『車輪の下』に重ね合わせて揶揄(やゆ)しているのだ。もう一つ、「裏口組」という隠語もある。
後期合格者を指しているという。「後期試験では、たまたま東大に受かってしまったという生徒が毎年出てきます。合格する力がないと思われた子でも、後期で引っかかるというケースがある。こういう子は基礎学力が足りていないので、大学の授業についていけない可能性が高い。そして、コンプレックスを抱き、東大生の輪に入れなくなる学生もいるのです」
通信教育大手「Z会」学習支援課の小平雅澄氏はこう指摘する。冒頭に登場した文学部卒業生は後期試験に受かって入学しているが、やはり自らを「裏口入学者です」と自虐的に語る。
そして、地方無名校出身かつ後期合格者という"ダブルハンディキャップ"から、彼は虎口を脱するかのように、東大からドロップアウトした。勉強では勝ち目がないので、"戦場"を渋谷に変えてナンパを繰り返した。ただ、「麻布から東大に入った」と嘘をつけば"喰い付き"が良いとわかった時には、一層虚しくなった。
長崎の農学部卒業生(前出)も、入学早々、一人も友達ができなかったことに落胆し、アパートに引きこもった。彼は地元で「神童」と呼ばれ、東大に入ってからは、母校での講演会も頼まれた。地元に帰りたい一心で引き受け、全校生徒300人ほどの前で「東大とは」「受験の心構え」などを大いに語ったが、東京での自分の"実像"を思うと自暴自棄になったという。