谷脇康彦(総務官僚)×町田徹(経済ジャーナリスト) 「現役総務官僚が語る『日本IT産業を見失った5つのミッシングリンク』」

「良いものを作れば勝てる時代」は終わった
町田 今、日本のIT産業は存続の危機に瀕していると言えます。サービスではアップルやグーグル、フェイスブックといった米国企業が世界を席巻し、デバイスでは韓国のサムスンやLG、中国のファーウェイなどが存在感をどんどん増している。一方で日本は、パナソニック、ソニー、シャープなどが過去最高の赤字を出すなど、まったくと言っていいほどいいところがない。
なぜこんな悲惨な現状になってしまったのか。再生のチャンスはあるのか。以前から通信政策の第一人者として知られる総務省きっての改革派官僚・谷脇康彦さんに、今日は率直に語っていただきたいと思います。
谷脇 日本は長いこと「もの作り大国」だと自負してきて、「いかに良いものを安く作るか」に集中してきました。その結果、グローバル市場を制することに一度は成功したわけです。テレビも然り、デジカメも然り。
ところが最近は、そのやり方では通用しなくなってきた。世界のゲームのルールが変わってしまったんです。
良いものを作っていれば勝てるという時代は終わりました。今や、もの作りとサービス作りを一体化させることが必須になっているんです。
町田 確かに日本のビジネスでは、サービスよりもハードに重点を置く傾向が強かった。今もそれは色濃く残っていますね。
谷脇 つまり、機器とサービスをつなぐ「環」がないんです。これだけではなく、日本の電機・情報産業の世界には、本来あるべき「環」がいくつも欠けていて、国力の回復を妨げている。私は先日刊行した著書『ミッシングリンク デジタル大国ニッポン再生』でこのことを指摘しました。
町田 ミッシングリンクとは、日本語に訳すと「失われた環」。逆に言うと、その環が形成されれば、情報やITの世界で日本が世界のトップランナーに躍り出ることが可能になるわけですね。どんな環が欠けているのですか。
谷脇 詳しくは本を読んでいただければわかりますが、ミッシングリンクは大きく5つあります。最初が、先ほど説明した「機器とサービスをつなぐ環」ですね。二番目が「供給者と利用者をつなぐ環」です。
たとえば私たちは今、アマゾンなどで買い物をするときに、「誰が勧めているか」という情報を見ながら購入するでしょう。ものやサービスを作ったり、売ったりするフェーズに、利用者の声がどんどん入ってきているんです。いわば供給者と利用者のコラボ(レーション)ができて、それがビジネスを成長させている。そういう仕組みが、日本ではまだうまく作れていません。