2012.09.12

羽佐間正雄 第2回 「野糞を盗撮したオヤジを追いかけ回してフィルムを奪い、それでもゴボウ抜きで優勝した”ショーター大事件”」

島地 勝彦 プロフィール

羽佐間 その英雄ショーターが優勝候補No.1として、1972年のミュンヘンオリンピックにやってきた。ドイツではマラソンはあまり人気がなく、全行程を中継しないんです。何ヵ所かの固定カメラをモニターで見ながら実況放送していたんですが、いよいよ競技場に入ってくる。ここは僕の集中タイム。

 「いよいよ、ショーターが入ってきます」と言った途端、ランナーがゲートから入ってきた。モニターを見ていたわたしは思わず「これはショーターではありません!」と断定した。放送席がスタンドの一番高いところにあったんで肉眼ではランナーは豆粒くらいにしか見えない。ぼくはモニターを見て瞬間的に発声しました。

 これは欧米人がよくやるプラクティカルジョークだったんです。ゲートのところに隠れていたランニング姿の高校生が飛び入りで走ってきたんですな。でも中継していた各国のアナウンサーたちは「ショーターが意気揚々と入ってきました」と放送していたんです。

立木 羽佐間さんはよく咄嗟に気がつきましたね。

羽佐間 福岡マラソンで何度もショーターは実況中継していましたからね。あんなずんぐりむっくりしたヤツじゃないと瞬時に思った。でも心配で、マイクのスイッチを一瞬切って隣のディレクターに「あれはショーターじゃないだろう」って訊いたら、そいつが「さあ、どうかな」なんて調子で・・・。

 そうこうしているうちに、グランドに本物のショーターが颯爽と姿を現れたんでホッとしました。ほかの国のアナウンサーは「第2のショーターが入ってきました」なんて言って誤魔化していたようです。もしこれがぼくの錯覚だったら、NHKをクビになっていたでしょう。

立木 そしたら当然大喜びで民放からの誘いがあったでしょう。

羽佐間 そのうちオリンピックの放映権が高騰してNHKと民放が共同でジャパンプールを持つことになった。だからぼくの実況中継の映像が民放に流れたりする。オリンピックから帰ったら、「羽佐間はいつから民放に移ったんだ!」と投書や抗議の電話がありました。

セオ たしかに羽佐間さんはNHKの顔でしたものね。