2012.11.07

経済学は非力ではあるが「役立たず」ではないかもしれない、その理由

経済学への「愛」と「がっかり」

このたび、講談社現代新書の一冊として、『ゼロからわかる 経済学の思考法』を上梓することとなった。これは、経済学の基本的な考え方をまっこうから講義する本となっている。でも、既存の経済学の教科書とは全く異なるアプローチをとっている。それは、ぼくの経歴から来るものだと言っていい。

ここでは、ぼくと経済学との奇妙な間柄について告白したうえで、この本の意義を示したいと思う。

現在、ぼくは経済学者だ。博士号も持っているし、ちゃんと論文を学術誌に載せている。でも、普通の経済学者とは立ち位置が違うし、足場もグラグラしていて安定していない。どうしてか。それは、紆余曲折の末に経済学者になった、というぼくの経歴によるところが大きい。

ぼくは、学部では数学科に所属していた。中学生からの夢が叶った形だった。でも、そこまでだった。最前線の数学はあまりに抽象的でとてもついていけなかった。落ちこぼれたぼくだが、数学には未練があり、塾の講師をすることで数学にしがみついていた。

経済学との最初の出会いは塾時代だ。それは二つ別々の方角からやってきた。一つは、塾の経営に関与し、嫌でも生の経済の荒波にもまれたことだった。それで経済学を知る必要性を感じたのだ。

 
◆ 内容紹介
経済学は小難しい? ちっとも現実を説明してくれない役立たず? 旧態依然とした教科書的解説を一切廃し、その本質とロジックを平易に語る。経済学の見方を塗り替える魅惑の講義、ここに開講!
 

当時は、バブル真っ盛り。お客さんがわんさか来て、規模の拡張や従業員の確保に追われた。また、得た利益をどう運用するかも議論になった。経営陣は誰も経済学の心得がなく、勘だけを頼りに経営を行っていた。今思えば、危うい橋を渡っていたものだ。