ガンマナイフの達人
●林基弘(脳神経外科)
脳の手術と言えば、受けるだけでも命がけの大手術というイメージがある。だが「ガンマナイフ」治療は違う。0・1mmの精度で放たれる放射線をメス代わりに、頭を切らずに無痛で治してしまう。
「週末に脳腫瘍を治療して、週明けから出社される患者さんもいるほど、超低侵襲な治療法なんですよ」
林基弘医師(東京女子医科大学)はニコニコしながら話す。気さくな雰囲気だが、ガンマナイフ治療の世界的権威だ。
林医師は、8歳の時に原因不明のアレルギー疾患にかかり、一命を取り留めた経験がきっかけで医師に憧れるようになった。とりわけ魅せられたのが脳の神秘で、専門分野を選ぶ際には、初志貫徹で脳神経外科へと進む。メスで手術する、普通の脳外科医を経験した後、上司の勧めでガンマナイフに転向した。
「ちょうど幼なじみをAVM(脳動静脈奇形)で亡くして間もない頃でした。教授からガンマナイフならAVMも治せるよと言われて、これは運命かもしれないと思いました」
それから5年間で1000例もの症例をこなした後、フランスへ留学。そこで、目から鱗の感動に出会う。
「当時日本では、ガンマナイフは脳腫瘍の治療として使われるのがほとんどでした。ところがフランスでは、主にてんかんなどの治療に使われていたのです。痛みだけ除去し、感覚を残す放射線の不思議な特性を活かした繊細な治療です。ガンマナイフへの興味と、子どもの頃の脳の神秘への憧れが一気に蘇りました」
憧れほど、人を突き動かすものはないかもしれない。がむしゃらに頑張った結果、林医師はフランス唯一のガンマナイフ治療施設で室長に就任。わずか2年で1014例もの治療にかかわった実績を持って帰国。治療総数は6600症例に達し、現在に至る。
●佐野武(胃がん)
「D2のスポークスマン」---佐野武医師(がん研有明病院)は、自らをそう任じる。D2とは、「定型手術=胃の3分の2以上を切除+D2リンパ節郭清(切除)」の略称だ。日本で生まれた、患部を広めに切り取る手術である。佐野医師は、D2により2000以上の症例を手掛けてきた、日本を代表する胃がん開腹手術のエキスパートだ。
胃がん大国・日本の治療成績は、世界でもダントツに優れている。その理由の一つが、D2が標準的に行われていることだ。