着々と権力の足場を固めつつある習近平---150㎞に及んだ広東省視察と、国家海洋局機の尖閣領空侵犯が意味するものとは

日本では16日に総選挙が開かれ、自民党圧勝が世界に打電された。
だがこの時期、まったく報じられていないが、中国国内でも「国会議員選挙」が行われている。来年3月に開かれる第15期人民代表大会(国会に相当)の代表(国会議員に相当)選挙だ。北京市内の各地でも、「珍惜民生権利、投好庄厳一票」(民主の権利をありがたく思い、貴重な一票を投じよう)というスローガンが、各所に立ち並んでいる。
そして投票所、投票用紙から投票箱まで立派なものだ。市民は、「選民証」という投票権証明書を持って投票所へ行き、望ましいと思う候補者の名前に○を付ける。こうして全国から選ばれた約3000人の人民代表が、来年3月上旬に、晴れて北京の人民大会堂に集結するというわけだ。
これほど厳かな選挙をやっていても世界の注目をまったく浴びないのは、中国の選挙が極めて形式的なものだからに他ならない。ある北京の国有企業に勤める友人によれば、全社員一斉に、社内の会議室に急遽しつらえられた投票所へ行き、自分の会社の総経理(社長)の名前を書くように上司から言われ、その通りにして帰ってきたという。ちなみにこの友人によれば、社長が当選したかは不明だが、他に候補者がいなかったので、おそらく当選しているだろうという。
意味深な習近平・新総書記の「新南巡」
さて、このような選挙の頂点として、来年3月に国家主席に選出されることが「予定されている」のが、習近平・新総書記である。
12月7日と8日、習近平は、総書記に就任して22日目にして、初の地方視察に出た。習総書記が視察地に選んだのは、広東省だった。
新華社通信の公式発表では、鄧小平が1992年に行った、いわゆる「南巡講話」(1992年に改革開放を加速化せよと説いた)の行程を辿り、深圳、珠海、順徳、広州を巡ったという。新華社は次のように伝えている。
< 海外メディアは、今回の150㎞に及んだ習総書記の広東省視察を、「新南巡」と呼んでいる。1984年1月25日に鄧小平が視察した漁村で漁民と語り合い、蓮花山で鄧小平の全国初の銅像に献花した。
今回の視察では、派手な横断幕、幟、花輪、赤絨毯などは一切、止めさせた。深圳迎賓館1号楼(VIPの宿泊地)ではなく、ホテルの普通の部屋に泊まり、宴会も一切廃止し、夕食はホテルのバイキングを皆と一緒に食べた >
つまり、普通の人の代表であることを示すため、特別な接待を止めさせたことを強調する視察だったという報道だ。
だが、こうした公式報道はさておき、今回の広東省視察は意味深なものだった。それには、いくつかの理由がある。