妻は夫の抱えるストレスにも無関心だった。
「中間管理職で上司と部下の板挟みになり、とりわけ部下が言うことを聞かないことに悩んでいた。家で愚痴を漏らすこともあったようですが、銀行員家庭に育った奥さんは『銀行員はストレスを抱えて当たり前』と相手にしなかった。
この方に限らず、痴漢や盗撮など性犯罪を起こしてしまう人は、家の中での存在感が薄いことが多い。妻や子供と仲良く会話をしているような人は、痴漢しないと思います。この夫婦は結局、離婚しました」
性欲を発散する場所がないことが、思秋期の男を性犯罪に走らせるキッカケとなる。中年の悲哀を描く作品を多く発表してきた、作家の森村誠一氏が言う。
「かつて40代、50代の男性はナイスミドルなどと呼ばれてモテました。若い女性はカネのない同世代より、経済力のあるミドルを好んだのです。私自身40代がいちばんモテた。
ところがいまやナイスミドルは死語。大手企業でもいつクビを切られるかわからないし、接待費も使えない。しかも日本人の寿命が伸び、40代は精神年齢的にはまだガキという扱いになった。家庭では居場所がなく、外でもモテない。どの方角を見ても希望の光がない。肉体は健康でも肝心の女たちが冷たい。これではストレスを抱え込むのも無理はありません。
NHKのアナウンサーといえばエリートですが、エリート層の性犯罪が増えているのは、こうした社会構造の変化が背景にあります。酒に酔った勢いでふと女性に触れてしまう。思秋期と言いますが、秋というよりは初冬の印象です」
思秋期に痴漢をしてしまう男性に「普段は真面目な人が多い」という点で、識者の意見は一致する。
真面目な男がレールを踏み外すとき、直接のトリガーとなるもの---。
それが酒だ。
前出の斉藤氏が言う。
「お酒さえ飲まなければ性犯罪には走らなかっただろう、という方は多い。森本さんもそうですが、飲み始めると自分がコントロールできなくなり、いわゆるブラックアウト(記憶を失う)の状態まで飲み続けてしまう人がいる。
普段性的な欲求を発散しておらず、酒で理性のコントロールを失い、なおかつ満員電車で女性と身体が密着するという条件が重なると、性的欲求が行動化されてしまうわけです」
前出の池内氏も、酒によってとんでもない行動に出たケースを紹介する。