そして長い年月が過ぎたころ、シマジは集英社から集英社インターナショナルに移った。
「教授、いよいよ『いざ鎌倉』です。出番がやってきました。『痛快!コンピュータ学』を作りましょう」
それから東大の坂村教授の研究室に部下の佐藤眞と毎日通ったのである。教授と佐藤がコンピュータの難しい話をはじめると、シマジは大きなイビキをかいて寝てしまった。普通なら怒鳴られるところだが、坂村はやさしく笑顔でいったのである。
「佐藤さん、シマジさんがこんなイビキをかいて寝てしまうような内容ではダメだね。方針を変えましょう」
ちょうどここら辺で目を覚ましたシマジが割って入って提案した。
「そうですよ、教授。こんな専門的な話ではなく、どうしてコンピュータが動くのか、そのあたりのもっと基本的なこと、コンピュータのABCから講義してください」
そのときシマジは生まれてはじめて、コンピュータが0と1で動いていることを知った。結果『痛快!コンピュータ学』は見事にベストセラーになった。そしていまでも集英社の文庫になって多くの版を重ねている。これぞコンピュータの名著である。編集者は知らないことでも"武器"にすることが出来るのである。
シマジ 久しぶりだけど、教授も元気そうじゃないですか。
坂村 シマジさんも直腸ガンの手術をやったり、心臓のバイパス手術をやったりしたのに、ますます元気でまさに不死身ですね。
シマジ 坂村教授とつきあっているうちに、いつしかトロンがおれの体内に侵入したかもしれないねえ。
立木 シマジはトロンが何であるかも知らないくせに、こうして坂村教授と親しくつきあっているところがあつかましいよね。
セオ まさに愛すべきあつかましさの一例なのでしょう。
坂村 ところでこのマシンはじつに見た目も美しいね。
セオ これはネスプレッソのラティシマというマシンで、カプチーノが瞬時に出来るスグレモノです。まずは一杯飲んでください。