打撃投手を経て、九州地区担当のスカウトに就任。そこで発見があった。沖縄の選手がチーム内で仲良くしているのを見て、「コイツを追い越してやろうと、なぜ思わん」と叱咤したくなったとき、昔の自分を見ているような気になったのだ。
寮の2階から飛び降りた
酒井が続ける。
「試合で結果を残せるのは自信と余裕を持っている選手。そのためには引き出し、武器—投手で言えば勝負球をたくさん持つことが大事です。典型的な例を挙げましょう。'09年の日本シリーズ第2戦、故障を押して先発したダルビッシュはスローカーブを多投して巨人打線を翻弄しました。これは開き直りではなく、何とかなるだろうという余裕と、自分の技術に対する自信が生んだ好投です。
昨季、2000本安打を達成した宮本慎也にしたって、プロ入り直後は打球が外野に飛ばない非力な選手でした。それでも守備とバントという売り物が二つあった。それで使われているうちに打撃が良くなり、自信を得て、余裕が出た。そして今があるんです」
マウンド上で余裕を持てさえしていれば・・・・・・と悔やむのは杉山直久(32歳)。
'02年のドラフト自由枠、いわゆるドラ1で阪神に入団した右の本格派である。
杉山は150近い真っ直ぐを武器に'05年には9勝をあげる活躍を見せた。だが、良い時期が続かない。
「マウンドの上でつい、余計なことを考えてしまうんです。僕は先発だったので、6回2失点なら合格だと考えていた。それで3失点してしまうと『今日はダメだ』と調子も気分も落ち込んでしまう。あと何イニング投げたら防御率が2点台になる、あといくつ投げたら規定投球回数に届く、と目標にするのはいいと思うのですが、それが崩れたときはもう落ちるしかない」
少しは意地もあろう、
「ブルペンで投げているときは、誰にも負けていないと思っていました。一軍と二軍の選手に技術的な差はさほどない」
と言う杉山に「では何が違うのか?」と問うた。
「阪神で凄いと思ったピッチャーが二人います。(藤川)球児はとにかく、オンオフの切り替えが凄い。さっきまで笑いながらしゃべっていたのに、ベンチからブルペンに連絡が入るや、バーンとスイッチが入る。目の色が変わるんです。ずっと緊張状態ではもたないので、メリハリをつけているんでしょう。
もうひとりは下柳(剛)さん。『結果は大事やけど、結果を気にする前に、どれだけ準備したか、いかに自分を追い込んできたかを大事にしろ』と言われて、ハッとしました。過程を大事にすれば、打たれても悔いの残りが全然違うんです。下柳さんはどんな若い選手よりも練習していました」
プロ8年間での通算成績は21勝23敗、防御率4・01。移籍した独立リーグも昨年一杯で引退。杉山は次なる目標に向け、準備中だ。