20日朝のNHK討論は久しぶりに面白かった。浜田宏一・エール大名誉教授と野口悠紀夫・早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の議論は見応えがあった。
実は、この両氏は、2000年初めのころから論争している。筆者は2001年7月に米国から帰国しているが、その年の12月3日内閣府経済社会総合研究所が行った「デフレへの対応を巡って」というフォーラムは、印象に残っている(議事録はコチラ)。
浜田氏は当時経済社会総合研究所所長で、パネルディスカッションのモデレータをつとめていた。野口氏はパネリストだった。
野口氏の報告は、インフレ目標を否定した上で、デフレは中国からの輸入のためで、日本の実質賃金が低下していくというものだった。要するに、安い輸入品が国内に入るので、競合品価格が下がり、デフレになるというわけだ。
これに対して、浜田氏は、野口氏の議論で一般物価水準と相対価格を混同している、デフレというのは一般物価水準の話であって相対価格の話でないとコメントしている。同じコメントが他のパネリストであった深尾光洋・慶応大学教授からも出された。
データが否定する野口氏の中国輸入デフレ論
この浜田氏らの反論は、少し経済学の知識が必要だ。ノーベル受賞の経済学者フリードマンががしばしば用いる論法だが、ある特定商品の個別価格の低下は、所得に余裕をもたらし他の商品への支出インセンティブとなり、他の商品価格が上がるのだ。このため、個別物価の平均になっている一般物価は、個別物価が下がっても必ずしも下がるとはいえないのだ。
もちろん価格の伸縮性は商品によって異なるので、ある商品価格の下落と他の商品価格の上昇が完全に相殺されることはないが、一つの商品の動きだけをみているだけでは十分でないということは注意すべきだ。
野口氏の中国輸入デフレ論は、データからも簡単に論破できる。最年、OECD諸国で中国からの輸入の対GDP比率はどの国でも上昇しているが、デフレになっているのは日本だけである。
さらに、OECD諸国で中国からの輸入の対GDP比率が日本より大きいのは、韓国、ニュージーランド、チェコ、ハンガリーであるが、いずれの国もデフレでない。また、最近、中国からの対GDP比率の上昇幅が日本より大きい国は、ニュージーランド、韓国、カナダであるが、いずれもデフレでない。
こうした両者が再び討論するのだから、面白い。ただ、当時から浜田氏のほうが説得力があったが、10年以上たった今では、データからも浜田氏のほうが圧勝だ。