戸川貴詞×安藤美冬 【第3回】
「個人=ブランド」はリスクが大きい 「僕は、自分が作った『NYLON JAPAN』の足枷になっているんじゃないか」

【第2回】はこちらをご覧ください。
無名の若い人を起用するのもブランディングの一つ
安藤: 戸川さんが『NYLON JAPAN』を創刊した当初は、予算の制約もあって、まだ世に出ていない面白い才能を発掘するという意味で、カメラマンやスタイリスト、ヘアメイクに、若いクリエイターたちを多く起用したそうですね。
戸川: 若いクリエイターのフレッシュなパワーに期待したというのもあったし、また、いろんな垣根を取っ払って新しいものを作りたいという思いもありました。出版業界の中にはいろいろ垣根や壁があるし、ファッション業界もそう。実は僕、独立する前は、ファッション誌の編集部にも在籍してたんですが、あまりファッションの担当をしてなかったんです。スノーボードとかストリートカルチャーとかパーティーとかがメインでした。
安藤: 「ど真ん中のファッション」をやっていたわけではない。
戸川: そう。いわゆる表参道的なファッション業界というのは、僕にはまったく縁がなかったんです。そういう世界との間には何とも言えない大きな垣根があった。スタイリストもフォトグラファーもプレスの方たちも、"業界人"と言われるような方たちは僕にとってはすごく遠い存在。
もちろん、中には快くご協力していただける大御所と言われるような有名な方たちもいらっしゃいましたが、基本的には、何の実績も信用も人脈もない僕なんか、そもそも相手にしてもらえるはずがない。そこで、垣根のない、一緒に面白がって仕事をしてくれる若くてイキのいいクリエイターたちに、面白いことをやってほしいと思いました。
安藤: 「こんなことをしたい!」という強い気持ちを持った若者たちを集めて『NYLON』の誌面を作った、とおっしゃっていましたね。
戸川: その中で育っていった人たちもたくさんいます。最初はよく言われましたよ。「なぜ、あのスタイリストを使うんですか?」とか「あのフォトグラファー、普段何の仕事してる人ですか?」とか。
安藤: どんな人に言われるんですか?
戸川: 誰とは言えませんが、ほんと、いろんな方たちに・・・。でも僕は、「いいページさえできれば、読者にとってはそんなの関係ない!」と思ってました。『Fine』のときだって、自分でスタイリングしたり、写真を撮ったりしてましたから。ジャンルは違えど、読者に支持されればそれでいいわけで、「誰を使うか」ではなくて、「何を作るか」が僕らの仕事なので。
安藤: 全部ご自分でできたのか。すごいですね。
戸川: そういうことが大切だと思ってたんです、何事にもとにかくチャレンジする気持ちが。有名な人たちとだけ仕事をしてたら、ある程度いいものが出来上がる保証はあるけれど、結局、他の雑誌と同じになっちゃうしオリジネイターにはなれないでしょ。じゃあ『VOGUE』でいいじゃないか、みたいな話になる。でも、それだと面白くないし、マーケットも開拓できないし、結果、ビジネスにもならない。
そこで、いろんな壁がありましたが、「僕たちはこういう若い人たちでやります」というのを貫きました。それも、たぶんブランディングの一つになっていると思います。
安藤: まぎれもないブランディングですね。ただ、まだ世に出ていない、実績もない若い才能はどう見つけたんですか? 戸川さんにとって、「この人とやろう」という決め手になるのは、やる気ですか? 縁ですか? それともセンスみたいなもの?
戸川: そういういろいろな要素と、あとは人間性ももちろんあります。ただ、僕に人を見る目があるとはとても思えないんです。たくさん失敗もしましたからね(笑)。自分も含めうちのスタッフたちも、そういう経験を経て、『NYLON JAPAN』とともに実力を付けていったんだと思います。スタッフィングもエディターの重要な仕事の一つですから。
安藤: 実際に仕事を任せてみたらイマイチだった、なんていうこともありました?
戸川: そういうこともあるし、他に、実力は申し分ないんだけど『NYLON JAPAN』に合わない、といったケースも多かったですね。