2013.04.03
# AI

「プロ棋士 vs 将棋ソフト」の戦いから、人間とコンピューターの関係を考えた

「先例の多い型を外して勝つ」やり方

 現役のプロ棋士5人と、「世界コンピューター将棋選手権」の上位5ソフトが団体戦で戦う「電王戦」が始まった。

 ここまで2局が指されて、1勝1敗だ。3月23日に行われた第1局目は、阿部光瑠四段が選手権第5位の「習甦(しゅうそ)」というソフトに勝ち、3月30日の第2局目は、選手権4位のソフト「ponanza」が佐藤慎一四段を破った。

 後者に関しては、現役の男性プロ棋士が始めて公開対局でコンピューターに敗れたとして、各メディアで大きく報道された。敗れた佐藤四段には少々気の毒な扱いだったが、恥じることはない。才能のある人間が鍛えるとこんなに強いものなのか、ということが十分に伝わる熱戦だった。

 筆者は、「将棋連盟ライブ」というスマートフォン用のアプリを使って、2局ともほぼライブで観戦したが、共に大変見応えがあった。正直なところ、コンピューターソフトという「異質な棋士」と人間との戦いが、ここまで面白いものになるとは思っていなかったので、驚いている。ルールだけでも将棋の分かる読者には、3局目以降の対戦を観戦することを強くお勧めしたい。

 筆者は将棋好きで、学生時代は将棋部に所属しており、昨年秋には本欄に「衰退か? 盛り返すか? 頭脳の格闘技「将棋」をビジネスとして考える」という小論を寄稿したり、それを受けて、日本将棋連盟の田中寅彦常務理事(現専務理事、九段)と対談したこともある。ただし、筆者の棋力は「強くないアマ四段」くらいであり、過去数年、市販のパソコンの将棋ソフトに勝ったことは数えるほどしかない(昨年、今年はゼロだ)。

 だから、「人間対コンピューター」の2局の内容的な解説は、「週刊将棋」や「将棋世界」などに掲載される専門家の解説を読んで頂きたいが、筆者なりに、2局を観戦した感想を簡単に述べる。

 第1局目は、18歳の新鋭、阿部光瑠四段の完勝に見えた。阿部四段は、通常は後手番の戦法である「一手損角換わり」を先手番で採用し、コンピューターの無理攻めを誘い、これを的確に受け止めつつ差を拡げて、後に攻めに転じてからは危なげなく寄せ切った。

 近年の将棋ソフトは、過去のプロの実戦などのデータから、定跡や局面の優劣の判断を大量に学んでいる。人間がこれに勝とうとする場合、先例の多い定跡型を外すのが一つの選択肢だ。

 昨年、故・米長邦雄永世棋聖(日本将棋連盟会長=当時)が「ボンクラーズ」というソフトと戦った際にも、後手番の米長氏は、初手に玉を動かすという、先例の非常に少ない形を選択した。これも、コンピューターにとって未知の局面に導いて、そこでの判断力で差を付けて勝とうとする戦略だったのだろう。

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