ドナルド・トランプは、なかなかに愉快な男である。
少なくとも、自分がトランプである事を愉しんでいるのは間違いないし、それ以上に稼ぐ事を愉しんでいる。
「大方の人は私のビジネスのやり方を見て驚く。私は気楽に仕事をする。アタッシェケースは持ち歩かないし、会合の予定もあまりぎっしり入れないようにしている。可能性を多く残しておくのが私のやり方だ」(『トランプ自伝』ドナルド・J・トランプ&トニー・シュウォーツ/枝松真一訳)
しかし、何よりも魅力的なのは、客観的にみれば、節操がまったくないように見える事だ―ジョージアに住む六十七歳の農夫が、農場を守るために自殺をした、という事件に激昂し、その妻が所有する農場の競売を撤回しなければ、殺人罪で銀行経営者を告訴する、と脅す一方で、自分ではホリデイ・インの株を買い占め、無能な経営陣がなんとか独立を守ろうとする努力を嘲笑して止まない事だ。
「ホリデイが私を厄介払いするために、プレミアム付きで私の持株を買い戻そうとすることも考えられる。もしプレミアムが十分な額なら、株を売るつもりだ。/いずれにしても、無能な経営陣が彼らの言う・独立・を守るために必死になるのを見るのは愉快だ。独立とは、要するに彼らの職という意味にすぎない」(同上)
ドナルド・トランプは一九四六年に、住宅建設業者、フレッド・トランプの次男として生まれた。
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父フレッドは、スウェーデン移民の子としてニュージャージーで生まれた。
実家は、かなり繁盛していたレストラン経営者だったが、フレッドの父はアルコールに浸りきっており、四十代で死んでしまったという。残された母、エリザベスは、三人の子―長女エリザベス、長男フレッド、次男ジョン―を養うために針子として働いた。
フレッドは、夜学の高校に通い、建築業に興味を抱いた。大工としての仕事を身につけ、図面を読めるようになり、見積もりを憶えれば、母親に無理をさせずにすむ、と思ったのである。