トランプは、日本をたびたび非難している。
「日本はアメリカを二重に搾取している。あの国は自分たちで使う石油の70パーセントをペルシャ湾沿岸の国から輸入しているが、そのタンカーを護衛しているのはアメリカ海軍だ。そうやって無事日本についた石油が今度はGMやフォードを打ち負かすために使われる。日本は公然とわれわれをバカにした。(中略)日本の科学者は車やVTRを作り、アメリカの科学者は日本を守るためのミサイルを作っている」(『PLAYBOY』一九九〇年五月号)
典型的な安保タダ乗り論なのだが、インタビュアーが日本人が不動産を買うのも反対なのですね、と問うと様相は一変する。
「まったくバツの悪い話だけど日本人のおかげで利益を得ているからね。日本人を大いに尊敬していると言ってもいい。ただ問題はわれわれが日本で商売しようと思っても不可能に近いことなんだ。日本人はウォール街でアメリカの会社を買い、ニューヨークで不動産を買っている。多分、マンハッタンを自分たちのものにしたいんだな。日本人と競り合っても勝てる見こみはない。どうみても彼らはこちらをコケにするためだけに法外な金額を払っているとしか思えない」(同上)
一九八六年から九一年にいたる、日本の土地と株式が天井しらずに高騰していたバブル経済まっただなかの感慨である。
だが、日本のバブルが弾ける前に、トランプ自身が窮地に陥った。
一九九〇年六月、ニューヨークの銀行筋は、トランプやその側近たちと話しあっている事を認めた。議題は、二千万ドルにのぼる借り入れ金の見直しだった。
トランプは、すでに豪華ヨットのトランプ・プリンセス号と、東海岸の大都市を結ぶ航空会社、トランプ・シャトルを手放していた。
さらにこれまでメディアが報じなかった私生活上の問題---糟糠の妻であるイヴァナ夫人との離婚と、愛人マーラ・メイプルズとの浮気が大々的に取り上げられ、起死回生を懸けて膨大な資金を投じた、アトランティックシティのカジノ、タージ・マハールのオープンに、集中する事が出来なくなったのである。
そうして、フォーブス誌が、トランプの資産が五億ドルに目減りし、このまま推移すれば、四千万ドル程度の資金不足に追い込まれるだろう、と予測したのである。
マンハッタンのウエストサイドの広大な開発用地も、頭痛の種だった。一九八五年に、一億一千五百万ドルで購入した土地に、トランプは世界一高いビルを作る計画だったが、地元の環境保護活動家たちの申し立てにより、プロジェクトは差し止められた。差し止め期間の間、トランプは、毎年千二百万ドル前後の利払いを課せられたのである。
結局、投資の失敗、破綻などによって総額推定九億ドルの負債を抱え、「世界一貧乏な男」という、不名誉な仇名をつけられた。